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How to skate a 10K
How to skate a 10K

Stephen Seiler のツイートから発見した
2022/2/12
> He said he would. He did. 10k-5k WR holder/OG Gold winner Nils van der Poel published a 60+ page explanation of his training process that's full of great quotes & reveals his thoughtful, individual, and deliberate approach to skating 10k faster than anyone
彼はそうすると言った。 彼はやった。 10k-5k 世界記録保持者 / オリンピック金メダリスト ニルス・ファンデルプール は、彼のトレーニングプロセスの60ページ以上の説明を公開しました。これは、すばらしい引用でいっぱいで、誰よりも10kを速くスケートするための彼の思慮深く、個性的で、意図的なアプローチを明らかにしています。

Note :
スティーブ・ハウスとスコット・ジョンソンの2つの書籍と、フィリップ・マフェトン、田中宏暁の書籍と、インターネットに落ちているスポーツ生理学の論文のいくつか(このサイト /taizooo のどこかに断片がある)を読んだことがある
これらの知識が、このマニフェストを理解する助けになった
他の人の、読解、出てた

"How to skate a 10K" を読解する
ニルス・ファンデルプールのトレーニング・マニュフェストと、ホメーロスオデュッセイア、同列のものとして読んでいる
> 文学的な読みとは要するに、その物語が現実の写しであろうが、あるいは何らかのたとえ話であろうが、そうしたレベルの差自体を自由に選べるという意味です。あるいはそうした複数の可能性を、同時に意識しつつ読むということです。 https://twitter.com/taizooo/status/1493575590426775552
> ニルス・ファンデルプールのマニュフェストの読解、誰も書いてくれないから、自分で書くかー https://twitter.com/taizooo/status/1493576751800532993

目標設定
10,000m は 400m のオーバルを25周する
ニルス・ファンデルプールが北京オリンピックで打ち立てた世界記録は 12'30"74
10,000メートル ニルス・ファンデルプール スウェーデン 12'30"74 2022/2/11
30" のラップタイムで 1周 400m を 25周 すると 12'30"00
ここが目標
そしてそれを実現した
このマニフェストの内容は、全てこの目標から逆算されている

トラック(陸上競技)に置き換えると
競技時間は 5,000m と同じくらい
12'35"36 ジョシュア・チェプテゲイ ウガンダ モナコ 2020年8月14日
ということは、使用されるエネルギー比率(リン酸系、乳酸系、有機系)も、最大酸素摂取量(VO2max)も、陸上競技 5,000m と同等のはず
LT ( Lactate Threshold ) / AnT ( Anaerobic Threshold )以上で行われる
血中乳酸濃度 4mmol/L 以上
5 Zone Intensity でいうところの Zone4 以上

このマニフェストの読み方
12分間、持っている力を全て使って、全力で走る(漕ぐ)(滑る)(泳ぐ)ということをまず想像してから(または体験してから)、このマニフェストを読む

The 10k session:
via 11p "Specific season"
Bike warm-up
3x8 laps at 30,0” with 2 laps rest (1min 20 sec rest)
30 min rest
(I usually got on the bike and did some easy stretching during this pause, but right before I left the bike for my next set on the ice I did 45 seconds of threshold so that I would be warm and ready for the coming set.)
3x8 laps at 30,0” with 2 laps rest (1min 20 sec rest)

「10k セッション」
中心になるのは「10k セッション」
10k セッションは「1周 30" のペースで8周 3,200m をレスト( 1周 40" のペースで2周 800m )をはさんで3セットを 30' の休憩を入れて合計2回、実行」
(8周 * 3セット) * 2回
30" * 8周 = 240" = 4'
4' + 1'20" + 4' + 1'20" + 4' =14'40"
14'40" + 30' + 14'40" = 59'20" ≒ 1時間

インターバル・トレーニング
「10k セッション」は、いわゆるインターバル・トレーニング
インターバル・トレーニングは負荷とレストとセット数の3つが変数
様々なバリエーションが考えられる。様々なバリエーションを試したい誘惑は大きい
レースのラップタイムより速いタイムで行いたいという欲望が強い
速いラップタイムで短い距離を短いレストでたくさん、というのが、もともとエミール・ザトペック のアイデアだった
しかしここではひたすら単一のセットを実行している
実はもう一つセットがあって「 5k セッション」
こっちは 5,000m レースを想定している
インターバル・トレーニングは、目標とするレースのラップタイムに、現在の能力をどうやって寄せていくのかということに主題がある

「10k セッション」でなにを実現しようとしているのか
10k を3等分してレストをはさんで3回滑る
30分の休憩をはさんで2回行う
5日間連続で実施する
このときに維持出来る、週間を通しての平均ラップタイムが、テーパリングしたときの 10,000m レースのラップタイムと近似するという経験的、統計的な根拠に則っている

「10k セッション」の平均ラップタイムが本番の 10,000m でのラップタイムと一致する
via 16p "Criticism of the monotonous program"
> As I entered competitions I knew my capacity from all the statistics of my training. I.e. the average lap time from a week of five 10 000m sessions indicated (with a 0,15 accuracy) the average lap time I could perform on a 10 000m after a decent tapering on the same ice.
大会に出場したとき、トレーニングのすべての統計から自分の能力を知っていました。 つまり1週間で行う 5回 の「10k セッション」の平均ラップタイムは、同じ氷上で、適切なテーパーリングを行った後の、 10,000m レースで実行できる平均ラップタイム(0.15秒の精度)を示しています。
0.15秒の精度
100分の15秒
「10k セッション」が意味するところは、トレーニングの結果が、そのまま競技の結果と合致する、ということ
意味を反転させると、競技の結果と一致するように、トレーニングを設定した、ということ

「1周ラップタイム 30" 」の意味
via 11p "Specific season"
> I never skated slower than competition speed due to two reasons.
私は2つの理由から、競技速度よりも遅くスケートをしたことはありませんでした。
> Firstly (1) I consider technique to be altered to a specific speed. So as I was skating at a slower speed I contaminated my competition speed technique.
まず(1)テクニックを特定の速度に変更することを考えます。それで、私がより遅いスピードでスケートをしていたとき、私は私の競争スピードのテクニックを汚染しました。
> Secondly (2) I didn’t want to wear out, or tire, my legs by skating slowly as the number of competition speed-laps I could perform weekly would decrease if I wasted my energy by also going slow on the ice.
つぎに、(2)氷の上でゆっくりと走ることでエネルギーを無駄にすると、毎週実行できる競技スピードラップの数が減るので、ゆっくりとスケートをして足を疲れさせたりしたくありませんでした。

「1周ラップタイム 30" 」がいかに重要かを示すポイントについて
(a) 遅いスピードでのスケーティングを避けるため、ウォーミングアップはバイクで行った
ウォーミングアップからアイス・セッションへの移行時間を短縮するため、スピード・スーツを着てバイクを漕いだ
(b) 必要なエアロビック・トレーニングはスケーティングではなく、全てバイクで行った
エアロビック・トレーニングは有酸素運動能力のためのもの
エアロビック・トレーニングは専門的トレーニング「10k セッション」より低い強度で行われる
スケーティングでトレーニングを行うためには 1周 30" より遅いラップタイムで実行する必要がある
「10k セッション」のあとに 210W で2.5時間のバイク・ライディングを行った
専門的トレーニング期の有酸素運動能力を維持( keep )するために行うもの
おそらくクールダウンも兼ねている
ウォーミングアップ 15' + 「10k セッション」60' + エアロビック・トレーニング 150' = 225' ≒ 3時間45分
(c) 専門トレーニング(アイス・セッション)の期間のトレーニングは全て「10k セッション」に当てられた
5,000m を目標とした「5k セッション」もあるが、「10k セッション」をほぼ実施していた
1週間で5回「10kセッション」を行っているので、30" のラップタイムで240周回している
ランニングではなくてバイクだけだったのは 2020/2021 シーズンにあった故障(骨盤?)も関係してるらしい

「単調さ」の受容
このマニフェストの特徴的な点は、同一のメニューをひたすら繰り返すこと
シンプル、単純、単調さ、モノトーン
単調さ、単調度(数式として規定されている)の高さ、は故障発生と相関があるとされる
そのリスクをあえて取っている
受けとる利益と被る損害のバランスを見ている
「完全週休2日制」は、この「単調さ」に潜む危険性を、下げる意味もある。たぶん
連続48時間の完全レスト
アクティブ・レストではなく完全休養
まるでフルタイム・ワーカー(サラリーマン)みたい

単調さ:
Strain = Load * SD
Load は1週間の負荷量の合計
Load = 時間当たり負荷(任意) * 時間
負荷として RPE を使ったり METs を使ったり出力(W)を使ったり、いろいろ数値化についての工夫がなされている
SD は Load 1週間の標準偏差とする
この SD を単調度と呼ぶ
同じ Load 値でも単調度が高いとストレスが大きくなる

長時間低強度のエアロビック・トレーニング
エアロビック・トレーニング期のトレーニング時間、週30時間以上
なぜ、こんなに長時間のトレーニングが必要なのかというと、
なぜ、こんなに長時間のトレーニングが可能なのかというと、
「 10k セッション」を毎週5日行うためには、莫大なエアロビック・ベースが必要だ、と考えいてたと思われる
エアロビック・ベースはトレーニングに掛けた時間だけ向上する、ということが実証されているけど、そうは言っても出来ることと出来ないことがある。普通は
フルタイム・アスリートであるということと、その持ちうる時間の全てをエアロビック・トレーニングに当てているという凄み

ピリオダイゼーション
スピードスケートはシーズンスポーツ
ワールドカップ・シーズンは11月初旬~3月初旬まで
エアロビック・トレーニング期
ワールドカップが終わってすぐ~7月下旬
オフ・シーズンを設けていないっぽい
5ヶ月
スレッショルド・トレーニング期
8月初旬~ワールドカップ初戦の3週間前まで
2ヶ月
実際には10週間とのこと
専門的トレーニング期
ワールドカップ初戦の3週間前~ワールドカップ最終戦まで
年末年始に短いブレイクが入る
5ヶ月
オーバーリーチ & テーパリング
チャンピオンシップに向けては行ったが、ワールドカップに向けてはやらなかった、とある
オーバーリーチ期間はレースへの移動などの状況によって常に異なる
テーパリング期間は通常6~12日
via p12 "Overreach and tapering"
> I chose to do it this way because short term physical top shape is achieved at the expense of long term physical development, since the overreach and tapering requires a drop in training hours.
オーバーリーチとテーパーはトレーニング時間の短縮を必要で、短期的な物理的なトップシェイプは長期的な物理的な開発を犠牲にして達成されるため、私はこの方法を選択しました。
当然、オリンピックに向けてもオーバーリーチ & テーパリングしたと思われるが、
マニフェストに記載されているトレーニング・ログは 2022/1/31 までだったのでわからない
北京オリンピック スピードスケート 男子 10,000m 2022/2/11

ニルス・ファンデルプールのピリオダイゼーションの異質さとは
ごくごくオーソドックスなピリオダイゼーションではあるけども
エアロビック・トレーニング期の莫大な量
ここで行われるベース構築のためのトレーニング量の莫大さと単調さ
ここの能力向上は VO2max と違って結果がすぐに出ない。数値化されづらい。上手く行っているかわかりずらい。とても勇気が必要
移行期のスレッショルド・トレーニング期の短さ
一気にレースレベルがこなせるところまで仕上げること
そのレベルは400Wという大きな出力を2時間維持するというハイレベルさ
Out and Back でロッド・ディクソンがこなしていたスレッショルド・トレーニングは 15' + 15' = 30' だった
専門的トレーニング期まで一切スケーティングしないという切り詰め加減
ワールドカップの3週間前まで氷の上に乗っていない
本来割くべきテクニックのためのトレーニング時間をエアロビック能力向上に当てている
それ以外のプレハブ・トレーニングの時間も捨てている
プレハブ:プレ・ハビリテーション(リハビリ:リ・ハビリテーションに対する語)
スピードスケートは技術的な要素の占める割合が大きいスポーツのはずだけど、
レーンチェンジ、カーブ
テクニックに関してもめちゃめちゃシンプルに考えている
「スピードスケートとは身体を傾けて行う片足のスクワットである」

分極化( polarized )
専門的トレーニング期のトレーニング内容は、
「 10k セッション」
長時間低強度のエアロビック・トレーニング
の2つだけで、スレッショルド・トレーニングはしない
移行期のスレッショルド・トレーニング期は短い
10週間
この期間であってもエアロビックとスレッショルドの比率は 56:44 でエアロビックの方が多い

KISS
> アスリートの文章で KISS の文字列を見ることになるとは https://twitter.com/taizooo/status/1493146160152088577
> My training program was very simple and therefore very robust. It was cheap and reliable. Not fancy nor extraordinary. I tried not to involve things that I could not control. I did not become reliant on equipment that I could not easily access. I did not make plans that I did not understand. I did not follow a culture of buying a bike too expensive to bring about in the rain. To me speedskating was just a one legged squat, repeated over and over during maximum heart rate. It was all just very simple and I kept it that way.
私のトレーニングプログラムは非常にシンプルで、したがって非常に堅牢でした。 安くて信頼できました。 派手でも並外れたものでもありません。 自分ではコントロールできないものを巻き込まないようにしました。 なかなか手が届かない設備に頼ることはありませんでした。 わからない計画は立てませんでした。 私は、雨の中で持ち出せないほど高価な自転車を買うという文化には従いませんでした。 私にとってスピードスケートは片足のスクワットで、最大心拍数の間に何度も繰り返されました。 それはすべてとてもシンプルで、私はそれをそのままにしました。

感想、私見
> トップレベルのアスリートがエンデュランス能力とスピードスケート10Kと5K*だけ*に、持ちうる能力を全振りするという清々しさがあります :) https://twitter.com/taizooo/status/1493130464592543744
> オーソドックスなセオリーの徹底具合の凄みというか、そんなニュアンスですね https://twitter.com/taizooo/status/1493138970946928640
ヨーロッパを中心としたクラシカルなエンデュランス・スポーツの歴史、スピードスケートの競技の歴史、それと王国オランダに対するフィンランドという環境のこと、
ユースの世界選手権で優勝していること、4年前のオリンピックでは14位だったこと、そしてオリンピックのあと競技から離れて兵役についたこと、兵役が明けた翌日からトレーニングを再開したこと、
とかとか、そういう、いろいろな背景を知ることで、さらにこのマニフェストは輝きを増すと思います
古典の話、窓の外のノイズの話、に繋がる

その後の読解
スプレッドシートに書かれたトレーニング・ログを読んだ。

2019/2020シーズン
スピードスケートのレースに出ていない。そしてとてもたくさん走っていた
ウルトラのステージレースとか、バックヤード・ウルトラとかも走っていた
2019/7月
How to skate a 10K にも故障がなければもっと走りたかったようなことが書いてあった
その場合にはトレーニング時間の総量はもう少し少なかったとのことだった
同じ負荷であれば、ランニングの方が時間を短くする必要がある、ということ

2020/2021シーズン
レースに復帰した
ワールドカップは2戦に出場した
COVID-19 の影響なのかワールドカップは2戦しかなかった
5,000m はパーソナル・ベストを連続して更新した
10,000m は最終戦で当時の世界記録を更新した
驚くべきことに400mのオーバルではなくて250mのオーバルで滑っていた

2020/2021シーズンの終わりに
2021/4/4 スノーボードのクラッシュで骨盤を痛めている
2021/4/21 骨盤の故障の影響だと思うけど、ランニングを止めている
それ以降、How to skate a 10K にあるように、ひたすらバイクを漕いでいる

2022/2021シーズン
そしてオリンピックシーズン
オリンピックまでの4戦、5,000m 全勝、圧倒的


追記:ニルス・ファンデルプールの異端さについて
> Impatient athletes skipping the "training to train" phase and jumping straight to "training to compete".
> A foolish man builds on sand instead of rock.
せっかちなアスリートは、「トレーニングするためのトレーニング」フェーズをスキップして、「競争するためのトレーニング」に直接ジャンプします。
愚かな人は岩の代わりに砂の上に建てます。
> The heresies of NVDP:
> 1- back to back recovery days
> 2- endurance, stamina and threshold fitness trained in a different sport
> 3- long periods without sport-specific skill development
> 4- digital watch, lack of metrics in base
1- 連続した回復日
back to back recovery days
2- (対象のスポーツと)別のスポーツにてトレーニングされた、持久力、スタミナ、そしてスレッショルドのフィットネス
endurance
持久力全般
もしくは AeT レベル
stamina
おそらく耐久力のこと
> 【比較】 日本語では「体力,精力」の意に用いられるが,英語では疲労・苦労に耐える持久力をいう
threshold
おそらく AnT レベルの運動強度を長く維持できる能力のこと
3- (対象の)スポーツ特有のスキル開発なしでの長期間(のエアロビック・ベース・ビルディング)
4- デジタル時計、ベース(・ビルディング)におけるメトリック(指標)の欠如
(距離を積み上げるのではなくて、時間を積み上げるやり方のこと)
「ベースのメトリックの欠如」とは?
ベース・ビルディングのトレーニング指標
「トレーニング指標」とは?
達成するべき指標のこと
たぶんおそらくマイルを積み上げることを指していると思う
月間走行距離、何マイル、みたいなの
だから最初に "digital watch" って言っている
時間だけを積み上げている


追記:このトレーニングログを理解する上で
このトレーニングログを理解する上で、ニルス・ファンデルプールが自身のアスリートとしての生涯の最高地点に到達しているということを忘れちゃダメ
スピードスケートに取り組んだ長年に渡る到達点の、最高地点の数年間についてのログであるということ
ジュニア世代、ユース世代、シニア世代、世界トップテン、そしてゴールドメダリストという多年次的なプロセス
スピードスケート競技の歴史、国家のスポーツ政策、とかそういう大きな枠組みの中に彼は存在する
多年準備システムにおける選手の選抜と育成
選手の多年準備における現代のピリオダイゼーションシステム
とか
> 「育成」と「成果」(つまり勝敗)のバランス
> その2つは相反する。理論上、その両方を求めることは出来ない。
> そしてこの取り組みは1シーズン(1年間)とか、1ヶ月とか、1週間とかそういった短いプロセスではなくて、何年にもわたる多年次的なプロセスになる
この視点を無視して、単純にこれらのトレーニングログをそのまま真似しても、意味をなさない可能性がある