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私たちはどこから来て、どこへ行くのか
発行年 : 2014 年


本書は、『日本の難点』 の続編 (『日本の難点 2』) として企画されたもの

内容メモ
まえがき
ミリアド・ジェネティクス社の遺伝子関連特許を巡る裁判
法が想定しない自体であるため、判例からかけ離れた解釈をせざるを得ない
ニクラス・ルーマンによると、実定法システム立法を通じて法が社会を学習する必要
社会変化の速度が速く、学習が追いつかない
卓越者が公の利益のために活動することが信じられるか?
共同性の空洞化二階の卓越主義を要求するが、同時にその空洞化が卓越者の公的貢献動機を怪しいものにする
同様の矛盾が、国民共同体の意識をエリート層が意図的に醸成しようとした後発近代化国には見出される
市民の責任は法令遵守だが、政治家の責任は社会の存続 (そのために必要であれば法令も踏み越える)
平時は統治権力内の大半を行政官僚が行い、非常時には政治家が重要な決定を行う
政治家が行うのは、行政官僚が行うゲームのプラットフォーム自体を社会存続のために変えること
政治家官僚は潜在的に対立する
いまや、平時と非常時を分ける思考が通じなくなっている ← 非常時の常態化

1 章 時代 <終わりなき日常> が永久に終わらないのはなぜか
3.11 震災直後、「終わりなき日常」 が終わったとする議論が流行ったが、終わっていない
生産点での階級運動ならざる、消費点での非階級運動 (反核運動消費者運動ジェンダー運動反貧困運動など) には、多かれ少なかれ自己現象の側面
無自覚であることが悪い
新世紀エヴァンゲリオン』 では、オウム信者震災ボランティアが経験した 「ハルマゲドンを背景とする救済物語」 が展開
その物語自体が自己現象に過ぎないことを描き出していることがポイント
世界現象自己現象である」 という言いきりで終わる
その後、『最終兵器彼女』 から続くセカイ系
全体に関する言説が、全て部分に帰属させられる
行政への依存をやめて自立せよ
騒音過敏症の背景に地域空洞化 (社会心理学の実験によると、知らない人の出す音の方が騒音に感じやすい)
性体験人数に比して恋人がいる割合が少なくなっている → のきずなを信じる度合いの低下
両親を含めて、愛し合うカップルのロールモデルを間近で目撃する体験が減っているのではないか
1980 年代に新興宗教への入信が増える
風俗水商売の女性の割合が高い
性愛宗教が、ともに包括的承認を与えるツールとして機能的に等価だからではないか
1986 年以降の 『ムー』 のブームは、性愛を含めた人間関係への巨大な期待外れからくるものではないか
オウム信者の多くが 『ムー』 愛読者だった

2 章 心の習慣 震災で露呈した <民度の低さ> と <悪しき共同体>
3.11 震災における原発災害の背後に、科学技術を適切に扱う社会の実力 (民度) がある
原発をやめられない社会をやめる必要
想定を超えることが問題なのではなく、想定外の事態が起こった時に収拾可能かどうか
欧州では、1980 年代から共同体市場メカニズム行政官僚制に過剰依存する危険を共通認識に
福祉国家政策での 1970 年代の財政破綻共同体空洞化をきっかけにした新自由主義
1986 年のチェルノブイリ原発事故をきっかけにした食とエネルギーの共同体自治の動き
国や時代を問わず、被災地相互互助平等分配共同体が立ち上がることが知られている

3 章 文化 平成のサブカルチャー史と、社会システムの自己運動
筆者は、『サブカルチャー神話体系』 などで、戦後日本のサブカルチャーの変遷史を社会システム理論の枠組みで記述
それ以降のサブカルチャーの変化として、1996 年と 2001 年に大きな変化

4 章 社会 若い世代の感情的困難と、それをもたらす社会的位相
人格障害精神障害は対立する概念
「人を殺してはいけない」 というルールの社会はない
代わりにあるのは、「仲間を殺すな」 と 「仲間のために人を殺せ」 というルール
近代国家社会秩序の維持のために、人々に価値規範を内面化させることに腐心してきた
現代になるに従い、そうした不確かでコストがかかる方法は後退し、より実効的な行動コントロールを志向
社会的流動性の増加が背景にある
若者の解離化鬱化の増加
援助交際の世代交代
親友に何でも話せるわけではなくなっている
不特定多数への日記の公開などの、疑似プライベート空間の広がりが疑心暗鬼を生み出している
オンラインでだだ漏れになるのが怖くてオフラインで喋りたいことを喋れない

5 章 技術
トタリテート (全体性) を見渡す存在の不在
経済がうまく回ること自体が統合シンボルになる
検索システムフィールグッド・ステイトに必要な要素 (検閲の所在を知らせることなく情報環境の検閲ができる)
IT 化高度情報社会化による不安や不信の増大はどの国でも起こるが、それを埋める社会的リソースは社会の歴史性によって異なる
日本が一番脆弱
集権的再配分政治により、ローカルコミュニティの自律的相互扶助は完全に破壊された
血縁主義的な相互扶助も、一神教的な宗教的良心も、もともと信頼可能ではない
昔からあるものではない、という正当性問題を回避するには多様性を認める他ない
日本では多様性フォビアとしてのリベラルフォビアが蔓延している
ポストモダン的な公共性 : 教育を通して多様性に耐える人々を増やし、多様性実現により最大多数のまあまあの幸せを実現
有力な方法の一つはゾーニング
不安のポピュリズムは多様性も餌にする
後期近代では幸せが各人で分岐するが死や病気の不安は万人に共通 → 不安を焦点化した動員の効率性の方が高い

6 章 政治
資本移動自由化によって定義されるグローバル化ゆえ、先進各国が、処理困難な問題を抱えている
背後に、広範な抑鬱感
グローバル化の下では、新興国に伍して企業が生き残るのは、労働分配率の低下に成功したということ
政治家最終目的 (テロス) は、良き社会にすること
そのために行政官僚を使いこなす必要
2 つの方法
行政官僚が与野党に中立的であることを誇りとしつつ遂行能力を競うようにする
政治任用を行う
「国家から市場へ」 でも 「市場から国家へ」 でもなく、「市場/国家から共同体へ」 が必要
国家も市場も必要だが依存しすぎてはいけない
政治への関心が劇的に退潮しつつある
期待を裏切られたことによるように思える = 依存の態度のように思われる
エーリッヒ・フロムが論じたワイマール共和国におけるナチス台頭前夜の状況に似ている
機密文書がいつ曝露されてもおかしくない時代
近接性の変容
日本全体の救国はほぼ不可能
健全な社会の創出には健全な市民の創出が必要だが、健全な市民の創出には健全な社会が必要
自分たちを作り出す = 自己陶冶
社会学的思考伝統の源は迂回路の思考にある
当事者ガバナンス視座を取れるようになることが必要

7 章 全体
社会学とは、社会とは
マルクス主義に傾倒する若者が多かったことが 1960 年代の一般理論ブームに繋がった面
国家を手段だとみなす旧連合国に対して、旧枢軸国は国家を最終目標だとみなした
旧左翼 → 社会が良くなると人は幸せになる
新左翼 → 社会が良くなっても人は幸せにならない
社会システム理論では、対立は統合の証
宗教動機の不透明化
犯罪動機の不透明化
古くは性格異常と呼ばれたものと重なる
精神障害とは区別される
刑法 39 条は人格障害には適用されない
生育環境の分岐により、社会成員の感情の働きが分岐
感情の働きが共有されない前提の社会の仕組みへ
規律訓練 (主体の制御) → アーキテクチャ (身体の制御)
過剰流動性への対処として解離化が奨励される
妥当な民主制を支える自立した個人は、自立した共同体が育てる
日本には引き受けて考える政治文化がない
任せて文句を垂れる
いかに自立した共同体を樹立、維持できるか?
多くの国では社会的包摂へ落とし込まれている
日本には自治マインドの不在の問題があるため、それだけでは足りない
第三の道を日本が進むためには?
民主主義の中軸は自治
自治の中軸は参加包摂
それらは単なる制度ではなく行為態度とその帰結
それらを実現するのに最も有効な手段は住民投票制度である
社会化不全に抗う社会設計