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クィア・アクティビズム ― はじめて学ぶ <クィア・スタディーズ> のために
発行年 : 2022 年


日本にクィア・スタディーズが最初に紹介されたのは 1990 年代半ば
本書は、クィア・スタディーズという学問の成立過程を、社会運動との関係から整理するもの
クィア・スタディーズアメリカ合衆国の歴史と不可分なので、アメリカ合衆国での性的マイノリティの歴史を追いつつ、どのような社会運動が発生し、それがアカデミズムでのどのような理論形成を促したかといった点を整理
クィアについて
アメリカ合衆国での性的マイノリティの運動には 2 つの大きな動きがある
社会への同化を求める運動 (例 : 同性婚への賛成)
社会の変革を求める運動 (例 : 婚姻制度そのものの疑問視)

1 章 アメリカ独立宣言とリベラル・フェミニズム
フェミニズムの内容は、クィア・アクティビズムの理解にとって極めて重要

2 章 1960 年代のアメリカと性革命
1960 年代にアメリカで起こった性革命

3 章 ラディカル・フェミニズムとレズビアン・フェミニズムの勃興
1960 年代以降に登場する第二派フェミニズムについて
第一波からのリベラル・フェミニズムの流れ (男性社会に女性も仲間入りをしたい) と、新たなラディカル・フェミニズム (男性中心社会を批判する) の流れ
男性社会との距離を取ろうとしたフェミニスト分離主義なども

4 章 病気としての同性愛から抵抗へ
1870 年代から第二次世界大戦までのドイツにおける同性愛の病理化とナチスによる迫害の歴史
19 世紀末から 20 世紀初めにかけての同性愛の歴史にはドイツでの出来事が大きな影響を与えている
1870 年、ドイツの精神科医 Karl Westphal (カール・ヴェストファル) が 「同性愛的感情を意味する性的感覚は、後天的ではなく先天的なもの」 とする論文を発表
それ以前から同性間での性愛関係はあったが、それが同性愛者というアイデンティティとは結び付けられなかった
この論文で同性愛者という概念が生まれ、同性を性的に欲求する人々は異常だと位置づけられるようになった
同性愛の研究では Sigmund Freud (ジクムント・フロイト) の役割も大きい
1870 年代前後、ドイツでは同性愛を禁ずる法律ができた (ドイツ刑法典 175 条)
それに対して、「同性愛は先天的な病理であり、それを犯罪とするのは妥当でない」 とする抗議
1921 年、ヒルシュフェルトが主導して、世界性改革連盟 (World League for Sexual Reform) を設立
同性愛に対する社会の理解は 1920 年代に高まりを見せつつあったが、ナチスの台頭で台無しになった
1920 年、ヒルシュフェルトはのちのナチスに襲撃を受ける
性科学研究所は襲撃にあう
1933 年には研究所の資料が広場に集められて焚書
その後もナチスは同性愛者に対する攻撃を強めていった
人口政策上の理由 : 同性愛が広がると出生率の低下を招く
同性愛が伝染するという考え
ナチスホモソーシャルな結社 → 友愛ではなく同性愛が広まると国家が滅びる
1934 年にはゲシュタポ (秘密国家警察) が、それまでに同性愛活動に関わった男性の名簿を作成して管理し始める
強制収容所に送られた同性愛者も居た
ホロコーストの生き残りの同性愛者が自らの体験を語れるようになったのは戦後しばらく経ってから
ミシェル・フーコーの 『性の歴史』 はクィア・スタディーズを学ぶ上で避けては通れない

5 章 アイデンティティとプライド
第二次世界大戦後のアメリカにおいて、同性愛者たちが社会の中でどのような状況に置かれていたか
第二次世界大戦により、同性愛者たちがコミュニティを築いた
もともと、19 世紀から 20 世紀にかけて、同性愛は病気だと考えられていたため、なかなか出会うことが難しかった
第二次世界大戦では、男だけの軍隊だったり、女の従軍により、同性愛者同士の出会いが比較的容易になった
戦後も、同性愛者たちは故郷に戻らず、同性愛者たちが多く集まる都市に留まった (例 : サンフランシスコ)
戦後の反共産主義と冷戦により、同性愛者たちに厳しい目が向けられるように
第二次世界大戦後のアメリカは、ソ連冷戦状態に (米ソ冷戦)
1950 年代の赤狩りの中で、同性愛者も迫害の対象に
赤狩りの中心人物であるジョセフ・マッカーシー (Joseph McCarthy) が同性愛者も国家安全保障上の脅威とみなした
共産主義者の中には、多くの同性愛者が含まれていた
そのような状況下で、同性愛者たちの組織化が始まる
1950 年代のレズビアンとゲイの運動はホモファイル運動と呼ばれる
これらの団体は、差別的な人たちに認めてもらうために保守的な行動 → 1960 年代には多くの同性愛者に受け入れられなくなった
代わりに登場したのが性革命の中で公民権運動の影響を強く受けたいわゆるゲイ解放運動
1969 年に起こったストーンウォール事件が、ホモファイル運動からゲイ解放運動への移行を象徴
1696 年 7 月に、ニューヨークゲイ解放戦線 (The Gay Liberation Front) という組織が結成
ベトナム反戦運動公民権運動と密接に結びつく
1970 年代にはゲイライツ運動が盛り上がった

6 章 エイズの流行

7 章 エイズ・アクティビズム

8 章 クィア・スタディーズの理論とその背景
エイズ・アクティビズムクィア・スタディーズにどのような影響を及ぼしたのか?
ACT UP の抗議活動を通して、人々は一緒に戦っている隣人がどのような人たちなのか気づき始める
LGBT として一括りにされがちだったが、実は互いの背景をわかっていなかった
内部に目が向いていく → 白人ゲイ男性の特権性が明らかになっていった
ACT UP の活動では、女性や貧困者、非白人など、白人ゲイ男性以外が対象に含まれていないことへの抗議も活発に
AIDS 発症者 (PWA : People with AIDS) と科学者の関係も向上
それまで PWA を見ずに研究を進めていた科学者が、治験などで PWA に協力を呼び掛けるように
1991 年ごろから、ACT UP の内部分裂が激化
他人のことよりも自分の体調のことでいっぱいという人もいた
クィア理論の誕生について
ACT UP でも見られたように、ひとつのアイデンティティのみによって連携することの難しさ (自身とは異なるアイデンティティへの理解の必要性)

9 章 同性婚と軍隊
1990 年代以降の同性婚軍隊をめぐる運動
ここまでの流れは、大きく 「既存の社会に同化する」 ものと 「既存の社会構造を批判し、変革しようとする」 ものの 2 つに分けられる
ひとつのアイデンティティに基づく運動であったという点では共通している
特定のアイデンティティによって人々が結びつく運動をアイデンティティ・ポリティクスという
エイズ・アクティビズムでの脱アイデンティティ化の動きがクィアという考え方の登場につながった
クィア・アクティビズムは、社会に同化するものではなく、社会の在り方を批判するもの
例えば、同性パートナー関係が婚姻関係に組み込まれることを良しとしない (そうすると、ジェンダー不平等を温存させてしまう)
婚姻制度については、様々な立場がある
レズビアン・フェミニズムは、婚姻制度が女性の抑圧の根源である強制的異性愛を支えるものとして批判
ゲイ解放運動でも婚姻制度は批判されてきた
婚姻制度に代わる、多様な関係性の構築の必要性
一方で、1990 年代以降の LGBT 運動の最重要課題として、同性婚を認めさせる運動を積極的に展開した当事者もいた
特に、インディペンデント・ゲイ・フォーラム (IGF) などの、白人の上・中産階級の保守派
彼らはラディカル・フェミニズムクィア・アクティビズムなどの異性愛中心の社会構造を批判する急進的アクティビズムも批判
彼らは新自由主義的な価値観の積極的支持者でもあった
新自由主義的な社会は、個人の関心を公的空間ではなく私的空間に向かわせる
既存の社会構造を維持しながら、プライベートの充実に力を注ぐ
このような新自由主義的な価値観に合流する同性愛者の運動は新しいホモノーマティビティ (the New Homonormativity) と呼ばれる (Lisa Duggan (リサ・デュガン) による)
同性婚を認めさせる方向性の運動は、同性愛の主流化ともいえる
LGBT の中で同性婚の恩恵を受けるのは一部の人だけであり、同性婚のみが LGBT の特権的問題となってしまう
1990 年代以降、同性婚と並んで LGBT の運動のもうひとつの大きな焦点となったのが軍隊
国のために一市民として従軍するということは、LGBT が国へ包摂されると考える当事者もいた
軍人個人の問題ではなく、LGBT コミュニティ全体の問題とも考えられた
一方で、包摂される国家そのものの暴力性を批判する人々も存在
米軍からの LGBT の法的排除は 20 世紀の初めから
1916 年、軍の中で同性愛行為による暴行を行った場合に処罰されるように
1921 年、軍での同性愛行為自体が犯罪に
軍における LGBT が大きく取り上げられたのは 1993 年の Bill Clinton (ビル・クリントン) 政権の際に制定された DADT 政策
軍が軍人に性的指向を聞くことを禁じる (Don't Ask) 一方で、ゲイレズビアンなどの軍人も軍の中でカミングアウトしてはならない (Don't Tell)、というもの
2011 年に廃止
2001 年の 9・11 同時多発テロ以降、アメリカは白人ゲイ男性を積極的に国家に包摂しようとしてきた
白人ゲイ男性も、愛国心を高め、国家に同化しようとする動き
ホモノーマティビティとホモナショナリズムは、クィア・アクティビズムの観点では共通の問題点を抱える
インターセクショナルな連携の可能性が弱まっている

10 章 性別を越境する
近年のトランスジェンダートランスセクシュアルをめぐる議論は、クィア・アクティビズムにおいても重要な位置を占める
ゲイレズビアンなどの言葉からかなり遅れて登場していることもあり、多くの研究課題が残されている
2020 年代でも、トランスジェンダーに対する差別はなくなっていない
近年、インターネット上で見られる深刻なトランスジェンダー差別は、過去に起こったトランス排除の運動と共通な側面がある
トランスジェンダーの問題は、社会の中で強い規範として働いている男 / 女という枠組みを問い直すこと