Scrapboxの良さ(その2)
2019-01-25
書いて1時間の勉強会で話してみたら4割ぐらいしか進まなかった
ブラケティングの対象が名詞か動詞か、って話は本題ではないのに錯綜してしまった
伝えたい本題は「 #タグ
の感覚だと名詞しかやってはいけないかのような暗黙の思い込みが発生しやすいが、そうではない、動詞とか短文とかも自由にやって良いのだよ」ということだった
リンク先を全部開いて説明し始めてしまった
時間の見積もりが甘かった
2019-01-28 時間を置いたら言語化が進んだ
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Scrapboxとは
共同編集で、明示的な保存動作の不要な、Wikiである
って説明しても多分伝わらない
情報の間のリンクを表現するコストを最小限にすることにフォーカスした情報蓄積サービス
リンクはとても有益なものだが、リンクを作ることが手間だと人間はあまりリンクをしなくなる
コンテンツが書かれたページに「タイトル」があり
例えば [[タイトル]]
という「Wiki記法」によってリンクを貼ることができる
ハイパーテキスト
「ハイパーテキスト マークアップランゲージ」(HTML)では <a href="http://example.com/title">title</a>
だったものがWiki記法では [[title]]
になった
Scrapboxでは
さらに推し進めて [タイトル]
でリンクになるようになった
直接そう書いても良いし、既存の文章の一部を選択して [
を押すだけでもそこがリンクになる
文章入力中に[を押すと、閉じ括弧が自動挿入される
その後に入力した文字列によってリアルタイムにあいまい検索が走り、既存のリンクがサジェストされる
デモ: ここで「サジェスト」ってやる
概念が新しいので、一単語でScrapboxのリンク・タグ・ページタイトルの概念を指し示せる言葉がない
#タグ
[リンク]
#タグ
と [タグ]
は機能的には同じ
タグは見た目がいわゆるラベルとかハッシュタグと言われるものに似てる
そのせいで既存の「対象にタグを付けることで
階層的分類より柔軟な
整理ができる」系のツールの経験のある人が「そういうやつでしょ」と誤解しがち
そういう使い方もできるが、その使い方はScrapboxの機能の重要な部分を捨てててかなりもったいない。
文中の単語をタグ=リンクにすること(=ブラケティング)ができるのが重要
なぜか
コンテンツと別に「タグ」をつける情報整理システムでは「タグ」は「ページ」に「付いている」という関係
「付いている」以上の意味を持たない
一方で、文章中の単語やフレーズをブラケティングする場合、その単語の「
周囲の文脈」がある
解説
このページのここまでの部分にもこんな使われ方をしている
これが単に #ブラケティング
って書いてあるだけだったら、機能的に一緒であっても、人間の認知にとっては別物
こういうやり方は、Wikiにおいてよく使われていたものだ
ハッシュタグ形式の情報整理ツールの発想にとらわれている人は、この文章に対して「ブラケティング」というタグをつけるだろうか
#書籍 #日記 #議事録
のような「分類名」を入れてしまいがち
フォルダによる階層的分類の発想を引きずってしまっている
トップダウンに既知の構造に当てはめて整理していくのではなく、ボトムアップに予期せぬものが繋がるのが良い
Wikiから引き継いだ特徴として、ページのタイトルはリンクターゲットになる
[ブラケティング]
というリンクの先には、ブラケティングというタイトルのページが存在する
文中の重要語句をブラケティングすることや、ページタイトルでもあることなどから、 #書籍
スタイルのタグとは違った使われ方がされる
そのタイトルのページにその短文についての解説が書いてある
名詞形でキーフレーズを作ると、しばしば
抽象概念になりがち
「一単語または数単語の名詞で終わるものでなければならない」という思い込みが発生しやすい
>「飲酒効果の是認的発言」などと書くよりも、「酒は飲むべし」と書いたほうがよい。
と書いている
階層的に分類するのではなく、リンクをつなげていくのだ
この感覚には賛否両論ある。「整理したい」という意見もある
「階層的に整理したい」という意見に対して、作者の一人はこういう意見
人間は複雑なルールを理解して守ることができない
階層構造の適切な場所に書けという要求は徐々に困難になる
困難な要求が課されると、人間は書かなくなる
一方、世の中には整理はやめて検索で見つけようという思想のツールもあるわけだが…
検索で見つけるためには、(曖昧な検索がもっと進化しない限り)正確なキーワードで検索する必要がある
人間にそれは不可能
階層構造に従って適切な場所に配置し続けるのも不可能だし、適切なキーワードをきちんと付けて検索する時にはきちんとそのキーワードで検索するのも不可能
情報が繋がりあっているなら、その中の一つにキーワードがあれば良い
検索によって絞り込み、その結果の中から近そうなものを選び、リンクをたどっていくことで目的のものにたどり着く
階層分類でもなく、キーワード検索だけでもない方法での情報の構造化
リンクをたどることによって発見ができるようにするために、リンクがたくさんある必要がある
そこでScrapboxはリンクを作るコストを下げた
自動的にリンクを作るアプローチは目下のところやっていないように見える
思想的にやらないのか、手が回ってないだけかは知らない
だが少なくとも自動的にコンテンツを入れることには抵抗があるようだ
情報整理1.0: 場所ベースの整理
物は同時に1つの場所にしか存在できない
ファイルをフォルダの階層の中に置くのも同じ発想
場所を明確に決められない物があると破綻する
情報整理2.0: 整理するな配列せよ
整理しようとするのではなく、更新順やアクセス順で並べる
検索によって見つける
検索=絞り込み
GoogleはPageRankによって並べることで成功した
良いランキング手法を持たないサービスは「更新時刻順」などになりがち
アクセス順ソートは「最近使ったものはまた使われる頻度が高い」という経験則
情報整理3.0:
リンクによってつなぐ、ネットワーク型整理
食器や包丁はだいたいキッチンのそばにおいてある
ある情報が使われる時、それに
関連した情報が使われる頻度が高い
→情報の関連性によってリンクをつなぎ「
近くに置く」を実現
「関連」は機械的にもとまるものばかりではなく、個々人の主観的なものもある
なので人間がその
主観的な関連をアウトプットすることが容易でなければならない
Scrapboxはリンクの記法を極限まで簡素化することによって、関連のアウトプットを容易にした
主観的な関連と客観的な関連
よくブログなどに付いている「関連記事のサジェスト」は、何が理由でサジェストされてるかわからない
一方でScrapboxの場合は「共通のタグを持つもの」がタグの名前でつながる
その「タグ=リンク」は過去の僕がつけたものだ
レコメンドエンジンの実装では、レコメンドに役に立たない単語を
ストップワードと呼んで排除する
これはブラックリストだ
以前僕がサイボウズ式の記事データでレコメンドエンジンを作った時、意外な単語が邪魔になった
対談形式の記事が多いせいで、その「人名」が圧倒的な高頻度語になる
結果、単語の出現頻度に基づいてコサイン類似度でレコメンドしたりすると「同じ人が出てる対談記事」のレコメンドになってしまう
Scrapboxはブラックリストではなくホワイトリストで、レコメンドの仕方もブラックボックスでもなく挙動が理解可能
「なんかよくわからないけどレコメンドされた」ではなく「この記事も同じタグを含んでますよ」という形
リンクとかタグとか呼ばれているものの機能について説明
リンクというと、すでに存在しているものの間をつなぐような誤解が生じる
タグという言葉は曖昧で人によってイメージするものが違うが、ツイッターのハッシュタグのように文章とは無関係に、予め決めておいた印を付与して、後でまとめてみることを容易にするもの、と考えられやすいように思う
Scrapboxの場合はかなり違っていて、むしろ「ページのタイトル」に近い概念
リンクは、色によって識別する
外部リンクは下線があり、繋がってるリンクは青、繋がってないリンクは赤
という識別方法が、まあ初見ではわかりにくいよね
テロメアによる廃れ表示もわかりにくいがその説明は他でやる
文中の重要なキーフレーズにマーカーを引くような感じで「ブラケティング」する
この時点で対象文字列は「リンク」になる。
外部リンクではないので内部リンク。
このリンクは繋がっているなら青、繋がってないなら赤になる。
「繋がってないリンク」が当然存在するし、それは異常な状態ではない
定量的に調べてないけど、多分大量の「繋がってないリンク」が存在する
つながると思うからリンクするのではなく、重要だと思うからブラケティングする。
そうすると、予期せずいくつか青リンクになる。
他のページとの繋がりが事後的に発見される。
「
未来へのリンク」というフレーズは今思いついたつもりだったのに意外と青リンクだった
しかし過去に「未来へのリンク」という考えに至ったことがある、とこの青リンクによって僕は知った
かつてそれを考えたことがあるなら「未来+リンク」で
検索すれば
何か見つかるのでは?
やってみた
>単語の出現頻度などによる関連記事リコメンドがイマイチなのは、選択する単語がイマイチだからで、人手でのブラケティングは「よいキーワード」「その単語が出現した記事が未来にリコメンドされると嬉しい」という人手のアノテーション
>タグ付けする文字列選択の基準は、「未来の自分視点」です。未来の自分は何で抽出したいか、です。
これは5月16日に
塩澤 一洋先生が自分のScrapboxに書いた記事を、Facebookに投稿した後Facebook上でコメントがついて、そこでのやり取りから生まれた文章を、僕が有益だと思って記録しておいたものだ
これに対する僕のメモ
>情報の構造化は、「将来その情報を使う時に便利なように」行うものだ
Google検索ではこれを見つけた
>佐々木さんは、Scrapboxはログ(過去のこと)ではなくアイデアややりたい事など(未来のこと)を記録しておくのに向いていると話していました。
このリンク自体もリンクサジェストで入力して、リンク先に飛んだら空っぽだけど4ページほど先に繋がってて、オリジナルだと思ったものを選んで、さらにその先に外部のリンクがある
2-hop link
ページの中のキーワードをブラケティングした時点で、それは仮想的にページがあるのと同じ状態になる
例えばクリックすれば普通のページと同じように画面が表示される、404エラーではない
実ページだけではなく、仮想ページに接続ができた時も青リンクになる
実質的には「リンクで記述されたネットワークの2ホップ先を探索して、コンテンツがあれば青」に相当
人間の連想の一歩先まで探索しているので、予期しないつながりを提示してくることがしばしばある
個人の知的生産性向上の文脈
個人的には高い価値を感じている
エンジニアの知的生産術の企画・執筆のタイミングでは価値を理解してなかったため入れなかったが、今から企画するなら間違いなく入れる
僕の中での現時点での「知的生産の三種の神器」
小さい付箋100枚を使ったKJ法
電子化して検索可能にする
Scrapbox
ブラケティングされた文章がある程度の量存在しないと、価値を感じにくい
価値を感じなければ、文章を置いたり書いたりして、ブラケティングをすることに時間を使わない
ノートに多種多様な使い方があるのと同じでScrapboxにも上記とは別の使い方がされる
例えば共同編集が可能であることを生かして、会議の議事録をリアルタイム複数人で取る
議論が文字になっていくので議論が有益なものになりやすい
「一人の人がラップトップで書いてそれをモニタに移してみんなが読む」をやるケースでは、その議事録を取る人が議論に参加した場合に記録が乏しくなる
複数人で共同編集していると「記録されるべきこと」と誰か一人が思ったことは記録される
箇条書きコストが低く(スペース1個)、階層が無制限なので議論を「一次元にまとめる」という制約がない
例えば自分の勉強ノートをScrapboxで取る
わからない単語をブラケティングして、その単語について調べた内容をリンク先ページに書く
紙のノートに、例えばある日に正規分布の定義を書いたとして、数日後にその定義に言及したくなったら数ページ離れたところにあって不便
デジタルであればリンクを貼ることができる
そのリンクのコストが低い"( 正規分布
って文字列を [正規分布]
にするだけ)
ノートを取っていくうちに知識がネットワーク状につながったものが出来上がっていく
それぞれ便利ではあると思うが、ここで僕が注目している「
知的生産性の向上」とはちょっと違う感じ
フローをストックに
日常的に行われるやり取り(フロー)から、どうやって構造化された知識を作っていくのか
フローを保管すらせずに使い捨てていた人たち
口頭での会話
メールが全て保管され検索できる
サイボウズの掲示板やSlackなど
「手紙」のメタファーだったeメールから、前後の挨拶が取り除かれる
パーマリンクが出現する
「過去のやり取り」を指し示して共有することが可能になる
Togetter
Twitter上でのやり取りを、単に並べるのではなく、取捨選択できる
Slackのパーマリンクは「ある時点でのパブリックタイムラインにリンクする」に相当
目的ごとに事前に部屋(チャンネル)を作ることが前提のSlackと違い、Twitterは部屋がない
そこで事後的に、特定の話題のものだけをピックアップする
共同編集: Wikiからの長い伝統
現代のツールはこれらの要素が複合されたもの
僕のプロジェクトをエクスポートして、説明用に新しいプロジェクト作ったらいいかな
リンクの曖昧検索サジェストによって予期しないものが発見されて抽象化が進んだ事例