タコピーで学ぶ仏教心理学
お
釈迦さまは、
心(citta)は全部で52個のパーツ(
心所 ccetasika)によって組み上がっているということを見抜きました。
それら52個の心所について、「
タコピーの原罪」という漫画のどこに該当するかを通して
仏教の心理学の世界を探検してみましょう!
(当然ながら
ネタバレ注意!です。皆さん「タコピーの原罪」を読みましょう)
※
心所の簡潔なリストは「
心所のリスト」にあります。まず先にそれを眺めて構成を把握するのも良いかもですね。
同他心所(基本的な心)
不善心所(悪の心)
善心所(善の心)
>同他心所(基本的な心。善にも悪にもなる) アンニャサマーナ・チェータシカ aññasamāna-cetasika
>同他心所① 共一切心心所 (必ず生じる心所。善にも悪にもなる) サッバ・チッタ・サーダーラナ・チェータシカ sabba-citta-sādhārana-cetasika
心が対象に触れること。
タコピーはしずかちゃんからパンをもらって美味しいと言いました。舌と味が触れるという機能によって味を感じるきっかけになったわけですね。この触れるという作用が
触です。
触れたものを感じる。
タコピーがパンを食べたとき、舌と味が触れることで、味覚という心所(
受)が生じたということです。受があるから私達は物事を感じ取ることができます。
対象と他とを区別する働き。
タコピーは「パン」を食べ、味を感じ、「パン」というものを初めて学びました。今後はパンの味を感じたときに「これはパンだ」という
想が働くようになります。想の働きによって「〇〇は□□だ」という認識が生まれます。
行動を起こさせる働き。瞬間的に生じる意志。
上手い下手はおいておき、タコピーはみんなが
ハッピーになることをのぞみ、常にそれを達成しようと志していました。タコピーは純粋に良いやつなので、瞬間瞬間で人をハッピーにしようという意志を持っています。つまりタコピーには「人々をハッピーにしよう」という
志があるわけですね。
対象に集中する働き。
タコピーは「何で自分がハッピー星に戻ることができないか」を思い出そうと、虫取り網の中で目を瞑り思索に集中していました。↑の画像もどことなく仏像様に見えなくもないですね。
命根 ジーヴィディンドゥリヤ jīvitindriya
瞬間瞬間に心を生かす働き
しずかちゃんは命尽きるまで、どれだけ非道い仕打ちを受けようとも、たとえ自殺をしようとしていても、心はどうしても動き続け、生命活動は自動的に継続していました。次に次にと心をつなげようとする命根があるからです。自分で思うように制御できない。
諸法無我ということが分かりますね。
心が対象に向かう働き
第15話でタコピーがおはなしに成功したのも、「おはなしをしっかり聞こう」という
作意を保ち続けたから最後までやり抜くことができたのです。
>同他心所② 雑心所(毎回生じるわけではないが、心の基本的な働きである。善にも悪にもなる) パキンナカ・チェータシカ pakinnaka-cetasika
物事を認識するための論理作用(これは何だろう?など)
「あれ?何であの時、チャッピーはいなかったんだっピ?」。あれ、おかしいぞ、なぜだ、とタコピーがピーンと疑問を抱きました。このように論理的に物事を明らかにしようとする考え始める心の働きを
尋と言うようです。
対象について考える働き。結論の直感。
14話「助けてあげようとするだけじゃ、きっと違った」。タコピーが自分の中で答えを導き出したこの瞬間に、
伺があったことでしょう。
勝結 アディモッカ adhimokkha (しょうけつ)
対象が心から離れない働き。気になってしまう。
チャッピーが連れて行かれた後のしずかはチャッピーのことしか頭にありませんでした。とれだけ姿や行為が汚れていても、それ以外のことは何も考えることができていなかったのです。
また、↑の絵のように、そんなしずかに対してタコピーがドン引きしているのがわかりますね。
勝結が悪い方向に向くと周囲も心配してしまいます。一方、正しい方向への勝結は役に立ちます。
努力する働き。頑張るエネルギー。
しずかはチャッピーに会うため、北海道から東京まで、隠密して船に乗り込んだり無銭飲食したり、ボロボロになりながらも突き進みました。このように悪い方向にも努力はできてしまいます。正しい方向に
精進するのが仏道修行なのです。
喜びの働き。
「ぼくはハッピー星人!宇宙にハッピーを広めに旅をしているっピ!」。こうしてタコピーは便利で楽しいハッピー道具を使わせることでしずかにハッピーになってもらおうとしました。ハッピーこそ
喜の心所です。
ただし仏教では外界から得られる喜びの刺激(タコピーがハッピーだと思っていること)の限界を説いています。つかの間のハッピーを得たところで、さらにハッピーを求めようとし、常に不満足を感じることでしょう(
一切皆苦です)。こころが穏やかになる程度で良いのです。
行動を起こすエネルギー。やる気。
タコピーは「ぼくがしずかちゃんを笑顔にしてみせるっピ」と言いました。このモチベーションの源のことです。
>不善心所① 愚かさの心所 = 共不善心所(悪の心に必ず存在する心所)
タコピーを初めとするハッピー星人は、とにかく無知であるという描写が意図的にされていましたよね。彼らはハッピーという幻想に執着し(
苦を知らない)、またそれさえすればすべて解決なのだというハッピー観(
無常も
無我も知らない)を持っていました。そんなタコピーは、後先も考えず逆に相手を不幸にしてしまったり、問題点が何であるかを考えもせずただメソメソ泣くばかりでした。
仏教において、
痴は最強の
煩悩です。しっかり仏法を学び、行学に努めることでようやく無明から解放されることができます。
タコピーの原罪では、親世代全員がこれに該当します。ネグレクト、暴力、アカデミック・ハラスメント、などなどこうした人間として恥ずべき行為ができてしまうのは、無慚という心所による結果なのです。
向こう見ずなこと。無謀な状態。悪いことをしても怖くない。
タコピーは、「自分の目の届かないところで人間にハッピー道具を使わせてはいけない」という掟があったにも関わらず、しずかに仲直りリボンを渡してしまいました。無慚の時と同様、
無愧によってその行為にSTOPがかからず、段々悪に染まっていきます。
浮ついていて、落ち着きがないこと。集中力もなく、混乱している。
しずかと一緒に無銭で船に忍び込んだり、無銭飲食したりと、タコピーも同様に悪を働いています。このときタコピーは常に汗がダラダラに描写されていましたが、これが
掉挙です。
好きなことに束縛された状態。
このページの作成者はタコピーの原罪が大好きすぎて、最終回を迎えているのにタコピーのことを考えるのをやめることができません。対象を好ましく思いすぎて「もっともっと」と執着してしまっているのです。作品が最終回を迎えたら、「まあ、いいか」と離れることができれば苦しむことは少なくなります。
自分の考えが正しいと思うこと。固執すること。
タコピーは「おはなし」さえすればすべて解決だと思っていて、その考えをまったく変えようとしませんでした。実は、いじめの加害者と被害者が「おはなし」することは9割がた失敗するという専門家の意見もあるようです。勉強をしっかりし、見識を広めることの重要性が分かりますね。
ちなみに、人間は、物欲よりも見解欲の方が強いです。自分の意見が正しいと思いたがるものなのです。
他人と比較し、上だ下だ同等だと判断すること。自我意識が過剰。
東くんは優秀なお兄さんと自分を比べ、深く落ち込んでいました。小学四年生なので仕方ないですが、自我の意識が慢を生むようです。
まりなのパパは妻に対して常に切れ散らかしていました。「だからタッセルってなんだよ!」はタコピーの原罪での一位二位を争うほどのバズワードでした。
ちなみに、タコピーには怒りの感情がほとんど見られませんでした。知性はなくとも、本当に優しい存在なのだと思います。
タコピーがハッピーママに対して見せた暴力が唯一の瞋だったように思います↓
嫉妬。自分にないものを持つ人への怒り。
東くんはお兄さん(潤也)に対して嫉妬を燃やし続けていました。勉強も恋愛も親からの愛情もなんでも手に入るのに、自分にはそれはない。愛する母親からの遺伝は自分にはない。その怒りから東くんはお兄さんを潤也と呼び捨てするようになりました。
物惜しみ。喜びを独り占めしたい。
(該当あるかな??ちょっと思い浮かばない)
後悔。過去の自分への怒り。
しずかが自殺した際、タコピーはひどく動揺し、掟を破ったことに罪悪感と後悔の念を抱きました。
仏教では、後悔は過去の自分への怒りと説明されるので、タコピーの新たな怒りの面が発見できたということですね。
心がだるい。やる気がない。
チャッピーを失ったしずかは完全なうつ状態となり、何も取るもの手につかない状態となりました。タコピーがいなければ自殺をしたほどです。早めの対処が必要です。
心が鈍くなっている。昼間の眠気。
真理への不信感。知りたくない。話も聞きたくない。
このシーンでタコピーはしずかを止めて「家に帰ろう」と提案します。ですが、しずかはチャッピーを探すことで頭がいっぱいです。この後のタコピーの話を全く聞こうともしませんでした。しずかは本当のことを知りたくなかったのです。
自由で正しい判断に基づく確信。経験に裏付けられた理性による確信。
14話でタコピーは東くんの教訓に感化され、「助けてあげるだけじゃきっと違った」とわかった上で最後の「おはなし」に臨みます。これまでのハッピーを押し付けるという
痴とは全く違う、正しい信念の持ち方でした。タコピーの成長が感じられるとても良いシーンですね。
皆さんも考え事をしている状態からハッと目が覚めるような経験があると思います。その心の働きが
念です。タコピーは第一話でチャッピーと出会った時、チャッピーについて思考分析したあと「ハッ」として、しずかが笑顔になっていることに気が付きます。
仏教徒は瞑想修行により常に念の状態を保てるようにします。
恥ずかしいことはしないという気持ち。
悪いことを恐れる気持ち。悪いことをしないという意志。
慚と愧は、15話で保健所の人の胃の中を調べようとするしずかをタコピーが引き止める際に発揮しています。「そんなことをすると保健所の人が悲しむっピ」「そんなんじゃしずかちゃんが悲しっピ」と説得します。
無慚・
無愧に支配されていたタコピーが本当に成長したことが分かりますね。
欲から離れ、手放そうとする働き。
タコピーは15話で自分の命と引き換えに大好きなしずかとお別れをします。一緒にいると幸せでずっといたいと思っていたにも関わらず、このままではしずかが幸せにならないと分かったので、自分の欲を捨てることにしました。この時にタコピーは
無貪を発揮してたのです。
怒りを減らそうという意志。優しさと慈しみの気持ち。
基本的にタコピーは怒りの気持ちを持ちません。しずかが暴走しても「ぼくが頭が悪くてダメダメだっピから…」というふうに、相手を責めることはしません。そしていつも涙を流し優しく声をかけるのです。
客観的な態度をとる働き。冷静で平安な心がまえ。
慚・愧のときにも紹介した、暴走するしずかを説得するときに、この中捨の働きかける見られます。「相手のことを考えよう」と冷静で中立な言葉を投げかけます。10話あたりのしずかにタジタジなタコピーは見る影もありません。堂々とした態度で臨んでいます。
身心の安らぎ・落ち着き、リラックス
第三話でまりなからしずかへの暴力が一旦は収まったとき、タコピーは上機嫌でルンルンと鼻歌を歌っていました。何回もループしていじめを防止してきましたからとてもホッとしたのでしょうね。
身心の軽やかさ、行動的で明るい状態。
序盤のタコピーはずっとこの状態でしたね。世の中ハッピーなことしかない。ちょっとしたトラブルも、おはなししたりハッピー道具を使いさえすれば全部解決だっピ!という具合に。ところが人間は業が深く、全然解決することはありません。タコピーは自分の無力感に悩まされるようになっていくのです。
身心が環境変化に応じる。成長する。
タコピーは目覚ましい成長を遂げましたよね。初めは人の話を聞かず独りよがりなハッピー観を押し付け暴走するだけだったタコピーが、終盤はしっかりと相手の話を聞き、相手のことをじっと見つめて気持ちを考えられるようになりました。
身心が正しい準備をしておく働き。臨機応変。やらなければならないことをちゃんとできる。
東くんは東京から北海道に戻ってきたタコピーを励ましました。こうしてタコピーは東くんの意志をしっかり受け継ぎ、しずかを説得する準備を整えられる状態となりました。このようにニュートラルでいつでも柔軟に行動できる状態が、身適合性・心適合性と言えるでしょう。
身心の経験を活用する働き。企画を立て実行できるだけの実力がある身心の状態。その道のプロ。
東くんのお兄ちゃんの潤也は完璧超人でした。勉強も恋愛もアルバイトも何でもできます。なんにおいてもしっかりこなすことのできる実力があることがこの2つの心所なのです。
あきらめない身心を育てる働き。決めたことをやり遂げる芯のある精神、行動力。
最後のタコピーによるしずかへの説得はまさに「絶対に諦めないぞ!」という精神と肉体のお手本のようでした。鬼気迫る勢いで強くて怖い言葉で詰め寄られ、足で踏まれ手で掴まれ石でボコボコに殴られ、それでも屈せず説得を続けました。ずっーとしかり話を聞いて相手に寄り添ってあげていました。
正しい言葉で話す。悪いことを話さない。ちゃんとコントロールする。
逆にできていない例を挙げると、まりながしずかやタコピーに向けていた言葉使い全てが
正語とは程遠いものでした。寄生虫、ごみくそ、上げたらキリがありません。仏教では
戒律として嘘、陰口、きつい言葉、無駄話を禁止しています。そのように正しい言葉を使うからこそ仏教徒たちは心が安定していて自由なのです。
自分や他の生命、社会の害にならない行動をする。
殺生、
偸盗(盗む)、
邪淫(不道徳な性行為)の3つから離れることです。
これも逆の例を挙げていきましょう。殺生はタコピーやまりながしてしまいました。偸盗は、ハッピー星人の文化として、ケンカをしたら相手のハッピー紙を隠すという風習があるそうですね。これは人の大事なものを盗む大変良くない行為です。また、しずかもタコピーからハッピー道具を奪い取りました。邪淫は、まりなパパやしずかママが該当します。この漫画の登場人物は問題行為だらけなのです。
人の役に立つ仕事を選び、自然や社会、生命の破壊につながらないように仕事をすること。
ハッピー星人の本来の在り方ですね。タコピーは残念ながら掟を守らず、さらに人を殺めてしまい
正命を果たすことができませんでした。
思いやりの心を育てる働き。見返りも期待せず、また好き嫌いも構わず生きとし生ける物を助けようとするエネルギー
終盤のタコピーの真骨頂ですね。タコピーはどれだけ自分がボコボコにされようとも、ボロボロになろうとも、一つも怒ることなくしずかのことを大切に思いやります。タコピーは見返りを求めたりもしません。
悲のこころがあるからタコピーはいつも優しく、明るかったのでしょう。
他人の善いところを見つける働き。他人の幸福を喜ぶエネルギー。
タコピーは最初からしずかを笑顔にしてみせると誓っていました。これはタコピーが他人の幸福を自分の幸福として感じる力が強い証なのです。最後の最後までしずかの笑顔を思ったタコピーの
喜は紛れもなく本物でしょう。
主観や偏見を交えず、ありのままに見る力。
智慧。慧根が育つことですべての善心所が正しく機能する。
残念ながら「タコピーの原罪」には慧根を持つキャラはいませんでしたね笑。それもそのはず仏教においてめちゃくちゃ重要な心所ですから、こんな荒れ果てたところではなかなか得にくいものです。もし、タコピーが慧根を持っていたらどうなっていたんでしょうか?考えただけでワクワクしますね。