generated at
かわいい学



参考文献
かわいい人工物研究部会


「かわいい」の非排他的包摂
未熟さ
弱さ
不完全性
悲しみ
醜さ
かわいいは正義
かわいいならばいかなる既存のジャンルや世界観の境界をも踏み抜くという価値観の表明


「かわいい」史
かはゆし
かほはゆし
顔映ゆし
映ゆ=映える、物事がいっそう鮮やかに見える、反映しあって美しく見える
11世紀、『枕草子』一四六段
「うつくし」
「かはゆし」という言葉がまだなかった時代
未成熟の美学
12世紀、『今昔物語集』第二五巻第六話
>コノ児二刀ヲ突キ立テ、矢ヲ射立テ殺サムハ、ナホカハユシ
「かはゆし」という言葉の残っている最古の文献
痛ましくて見るに忍びない。気の毒だ。不憫だ。
14世紀、吉田兼好『徒然草』第八十二段
>「物を必ず一具にととのへんとするは、つたなきもののする事なり。不具なるこそよけれ」
>「すべて何も皆、ことのととのほりたるはあしき事なり。し残したるを、さてうち置きたるは、面白く、いきのぶるわざなり。内裏造らるるにも、必ず作りて果てぬ所を残す事なり」
未完の美
中世にかけての変遷
「かはゆし」はもともと、下層階級の俗語だったのではないか
宮中などでは「うつくし」が使われていた
徐々に「痛ましい」「気の毒だ」のような否定的な意味合いが消滅?
「愛らしい」という意味合いが強くなっていく
仏教仏典から「可愛い」と当て字される
16世紀、キリスト教イエズス会『Vocabulario da Lingua Iapam』
Cauaij
同情、憐憫の情を催させるもの、あるいは同情の念を抱くこと
歌舞伎や大衆小説で使われる
18世紀、大津絵
無名の画工たちによって描かれ、印刷された街道のお土産もの
へたうま的なかわいさがあるyuiseki
招き猫
諸説あるが、もともと焼き物の人形を作っていた地域が発祥と言われていることが多い
人形=お土産ものとしての側面
伏見稲荷大社の参道には無数の招き猫がある
お稲荷さん=神狐の「かわいい」化ではないか?
言われてみると似ている気がしてくるyuiseki
1853年、黒船来航
1868年、明治維新
1906年、岡倉天心『茶の本』
>茶道の要義は「不完全なもの」を崇拝するにある。いわゆる人生というこの不可解なもののうちに、何か可能なものを成就しようとするやさしい企てであるから。
>真の美はただ「不完全」を心の中に完成する人によってのみ見いだされる。人生と芸術の力強いところはその発達の可能性に存した。茶室においては、自己に関連して心の中に全効果を完成することが客各自に任されている。
不完全崇拝
1909年、ローズ・オニール『キューピー』
1914年、第一次世界大戦に参戦
1918年、第一次世界大戦終結
1920年、童謡歌手「本居みどり」有楽座でデビュー
アイドル」の起源と考えられる
童謡作家本居長世の娘。名家の令嬢
当時、子どもの独唱コンサートという形式は珍しかった
「童謡」という音楽ジャンル自体、「レコード」という新たなメディア技術を売り込むために産業界が生み出した
蓄音機は高価なものであった
家族団欒の中心=子どもに売り込むためのコンテンツが必要とされていた
メディアの扇動によるイベント化によって国民的アイドルとして祭り上げられた
1921年、「御前演奏」(新聞社が大々的に報じた)
1923年、唐米答礼使節音楽団(新聞社が結成したもの)
1923年、「ウォルト・ディズニー・カンパニー」の前身「ディズニー・ブラザース・カートゥーン・スタジオ」設立
1934年、満州国の建国
1939年、太宰治『女生徒』
女生徒の一人称視点で書かれた小説
現代の若者文化における「かわいい」とそう変わらない感性がすでに完成している
1941年、第二次世界大戦に参戦、真珠湾攻撃
1945年、第二次世界大戦終結、敗戦
1949年、NHKラジオ『うたのおばさん』放送開始
1960年、「サンリオ」設立
1968年、『SEVENTEEN』創刊
1974年、サンリオ「ハローキティ」誕生
1980年、『Popteen』創刊
1985年、「UFOキャッチャー」
1988年、「テトリス」
女性でも楽しめるゲーム筐体の黎明期
1989年、『CUTiE』創刊
1992年、「わくわくアンパンマン」
揺れるだけだったキディライドに画面を設置、カードをランダムに排出といったインタラクティブ性を追加した
郊外型アトラクション施設に家族連れを呼び込む戦略があった
1992年、『美少女戦士セーラームーン』
1995年、「プリクラ」
1996年、『Cawaii!』創刊
2004年、「オシャレ魔女ラブandベリー」


きもかわ
人間の身体からの逸脱、欠損、畸形
ルネサンス期、クリヴェッリの聖母子絵画
赤ん坊がみんな気味悪い
1970年代の写真家ダイアン・アーバス
不気味な赤ん坊や双子の女の子の写真
「かわいい」とは本質的に「きもかわ」であり、一皮剥がせばグロテスクにすぎない


かわいいの神話
赤ん坊、馬、熊、動物などかわいいとされるもの
「かわいい」だけの存在ではない
人間の尺度を超えた行動を平然ととる
清潔さ、心地よさ、心理的安堵とはまったく異質
規則を押し付けて支配しようとしても失敗すること間違いなし
なぜ「かわいい」と認められるのか?
人間の保護を絶えず必要とするから
無防備で無力であることを確認されているから
保護されるべき弱者特有のアウラ


ぬいぐるみ
純粋に人間化された動物
弱者が発するアウラを人工的に結晶化した存在
極端にデフォルメされていて、よくみたらグロテスク
本質的に「かわいい」からではなく、人間が「かわいさ」を投影しているから、かわいく見える
構成主義と親和性の高い発想だと思われるyuiseki
グロテスク同情を喚起する
美しさではなく、グロテスク、畸形こそ、「かわいい」の隣人である


李 御寧『「縮み」志向の日本人』
日本文化の根底には物事を縮小する原理が横たわっている
縮小することによって、より「可愛く」「力強い」ものになる
「細工」「小細工」「不細工」などの概念
縮み志向の6つの型
入れ子型
込める。広く使って小さく納める省スペースの知恵。
扇子型
折畳む・握る・寄せる。何かを畳む発想。小型に作りながらも、より機能を高めること。日本商品の世界市場進出の突破口を開いたトランジスタ製品が代表。
姉さま人形型
取る・削るという縮みの共通的な発想。
折詰め弁当型
詰める。集団の枠に詰められて力を発揮する日本独特の団結力。
能面型
構える。剣道、柔道、弓道……構えは、すべての動きを縮めた型。
紋章型
紋章は集団のイメージで象徴物。武士は家紋にかけて戦う。


スーザン・スチュワート『憧憬論』
ミニアチュール
=細密画
「ミニチュア」は和製カタカナ英語であり、ミニアチュールが正しい
盆栽、箱庭、模型、人形、フィギュア、スノードーム、ジオラマなどの表現を含む
個人の持てる小さなものだけでなく、動物園も、水族館も、テーマパークも、人工的に縮小したミニアチュールと言える
自然の中にミニアチュールは存在しない。人工的に切り取られ、つくりこまれたもの
対象物を縮小して切り取ることによって、全体性の観念が強まる
時間=瞬間も切り取ることができる
流れる時間=歴史への忌避、現実逃避
ミニアチュールへの没頭は時間を忘れさせる
子どもとは大人のミニアチュールである
ノスタルジア
懐かしいものにはどこかかわいさがある
過去を美化しようという情熱
ここにも、歴史への忌避がある
絶対的な隔絶、手が届かないからこそ美しい
スーヴニール
旅行のお土産もの
観光地の伝統工芸品を手のひらサイズに小型化したミニアチュールなどだったりする
あるいは、観光地の有名な建築物の模型や風景だったりする
東京タワーの置物とか
富士山の形の置物とか


英語圏でのかわいい研究:ベビースキーマ(Kindchenschema)
1943年、動物学者コンラート・ローレンツによって提唱された
ノーベル生理学・医学賞受賞者
「刷り込み」現象の発見で有名
非力で助けの必要な幼い動物に出会った時の体験=Cuteness
対象が人間でも動物でも非生物でも生じる
1歳から1歳半の子どもでも生じる、おそらく本能的なもの
保護や養育に関係している?→反論あり、次項参照
「Cuteness」を構成する要素
広い額
幅の広い顔
平坦な顔
大きな目
浅い彫り
小さな鼻
幅の広い鼻
小さな上顎
小さな下顎
小さな歯
短い手足


Cuteness の最近の研究
2014, Sheman and Haidt, "Cuteness and disgust: The Humanizing and Dehumanizing Effects of Emotion"
「Cuteness」を社会や個人への関心、福祉と結びついた進化心理学的な道徳感情論として捉える仮説
「Cuteness」を感じる本能は、保護や養育ではなく、相手に社会的価値を認め交流しようという動機づけを高めるものではないか?という仮説
「Cuteness」はメンタライジングを促進する
対象の心の動きを推測しようとする
思いやり
「Cuteness」と反対の感情=「Disgust」(嫌悪)
嫌悪が生じたとき=対象の心の動きを推測しなくなる
嫌悪の対象を心がないと思えれば、モノのように扱えてしまう


かわいい人工物の系統的研究=「かわいい」を人工的に生成しようという試み
2007年~現在まで続いている、芝浦工業大学 大倉典子教授による一連の調査・実験
……etc
基本5色相以外の色相がやや「可愛い」と評価されやすい
黄赤
黄緑
より詳細な研究
明度・彩度ともに高いほど「可愛い」と評価されやすい
2次元、3次元ともに円・球・トーラス型などの曲線的な形の方が「可愛い」と評価されやすい
ドーナツ🍩とか
テクスチャ
硬質なものより、柔らかい表面を想起させるものが「可愛い」と評価された
触感
かわいい触素材
ムートン
コットン
シーブボア
かわいくない触素材
人工芝
紙やすり
大粒の砂
視覚的にも触覚的にも毛のような質感のほうが「可愛い」と評価されやすい
大きさ
ある程度小さい方が「可愛い」と評価されやすい
小ささには限度がある
ARで手のひらなどに表示するほうが大きさの違いに明確に反応する
→まだ、「動き」「リズム」「温度」などへの評価が足りていないと思うyuiseki
→要素に分解するという、還元論的な発想である。それらが一体化した際に生じる複雑なかわいさの創発をどう研究するのか?yuiseki


かわいいと生体信号に関する研究=「かわいい」を客観的に測定しようという試み
生体信号
アンケートなどの主観的な指標のデメリットを補完できる有効な手段
皮膚電気信号、心拍、呼吸、脳波、眼球運動などがある
装置
生体信号計測装置「BIOPAC Student Lab」
ワイヤレス生体センサ「RF-ECG」
わくわく系かわいい」と「癒し系かわいい」の二種類があり、心拍数で区別できる


かわいいと建築デザイン
かわいい建物は可能か?
建築においても「かわいい」が重要になってくる
建築デザイン
欧米の前近代の建築デザインは、唯一完璧な存在を目指す思想
古代ギリシャの比例や調和の美的感覚
キリスト教などの一神教的思想
封建主義的社会
近代以降のモダニズム建築も、同一製品大量生産による生活向上という単一の価値観だった
建築都市の巨大化は富と権威と技術を誇示する競争の産物だった
「かわいい」は、未熟な子どもを愛しむ本能が根本にあり、不完全を尊ぶ感性
かわいいは平和
完璧や一番でないことを評価する
競争の外にある
かわいいが美を崩す
唯一完璧な美に対する「崩し」
真正面からアンチテーゼをぶつけたポストモダン建築とも微妙に違う
「未熟者のしたことだから仕方ないか」と許される免罪符的な面を持つ
かわいいは人にやさしい
完璧な人は居ない
未熟でもその人らしくがんばっていればいい
ヒトは十人十色
モダニズム的な合理主義・全体主義とは異なる、個性と多様性の尊重
かわいいは人を動かす
WHOの提示した住環境に関する4理念「安全性、保健性、効率(利便)性、快適性」
これはマズローの欲求5段階説「生理的欲求、安全安定欲求、社会的欲求、尊厳欲求、自己実現欲求」に対応する
しかし、従来の建築はあくまで受動的存在で、マズローの5段階説でいう社会的欲求までしか満たせなかった

快適性の先の満足を得るためには、主体的な行動が必要と思われる
「かわいい」は、「かわいがる」という行動を引き起こすことができる
誰かをかわいがれば、社会の役に立ち、仲間の尊敬を受け尊厳欲求が満たされるのではないか