ブックカタリストBC095用メモ
テーマ:『BIG THINGS』から考える計画問題
頂いたお便り
ビクター・パパネック『生きのびるためのデザイン』、ロベルト・ベルガンティ、『デザイン・ドリブン・イノベーション』『突破するデザイン』
取り上げる本
『HOW BIG THINGS GET DONE:The Surprising Factors That Determine the Fate of Every Project, from Home Renovations to Space Exploration and Everything In Between』
住宅改修から宇宙探査まで、あらゆるプロジェクトの運命を決定する意外な要因
著者
ベント・フリウビヤ
経済地理学者。オックスフォード大学第一BT教授・学科長、コペンハーゲンIT大学ヴィルム・カン・ラスムセン教授・学科長。メガプロジェクトにおける世界の第一人者
デンマーク女王からナイトの称号を授けられた。
『建築家フランク・ゲーリーのプロジェクトマネジメント DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文』
ダン・ガードナー
カナダ在住のジャーナリスト、作家
『専門家の予測はサルにも劣る』
『超予測力 不確実な時代の先を読む10カ条』
目次
主題
私たちはプロジェクトをどのように進め、そしていかに失敗するのか。それを回避するにはどうしたらいいか?
ビジョンを計画に落とし込み、首尾よく実現させるには?
序章「"夢のカリフォルニア"」
例その1:カリフォルニア高速鉄道
高速列車がサンフランシスコとロサンゼルスを2時間半で結ぶ
2008年承認 2020年開業、330億ドルの総工費
2024年で完全な開通はしていない
予算の遍歴 430億→770億→830億→1200億ドル
2019年には規模の縮小
野心的なプロジェクトはすばらしい。しかし、どれだけ莫大な予算があっても、ビジョンだけでは何も成し遂げられない
例その2:デンマーク政府によるネパールの学校建設
1990年代はじめ、デンマーク政府は対外援助の一環として、ネパールに学校建設の資金を提供することを決めた
2万の教室と学校が貧しい地域を中心に建設される
1992年着工、工期は20年の予定
実際は8年前倒しで、予算以内に完了した
著者のベントがこのプロジェクトの計画立案を担当した
とくにすごいという意識はなかった
「ビジョンを計画に落とし込み、それを実現しただけのこと」
平均的なプロジェクトの有り様
普通のプロジェクトは、カリフォルニア高速鉄道のほうにずっと近い
たいていは惨憺たる結果におわり、最良の結果を出すのは例外中の例外
なぜ、大型プロジェクトの実績はそんな感じになっているのか?
例外なものは何が違うのか?
ちなみに、「大きい」は相対的なもの
住宅のリフォームは、個人にとっては「大きい」と言える
プロジェクトの失敗と成功をもたらす、普遍的な要因を考えていく
二つの要素
人間の心理
権力
失敗するプロジェクトの傾向→「すばやく考え、ゆっくり動く」
成功するプロジェクトはその逆
ネパールの学校、フーバーダム、ボーイング747、iPod、アマゾンプライム
例その3:エンパイア・ステートビル
1929年 5000万ドルの予算→1931年にオープン(実質18ヶ月)
結果は? 予定通りの開業で、しかも4100万円
どんな風に作業は進んだのか?
作業がはじまる前からビルは図面上で完成していた→「ゆっくり考え、すばやく動く」
1章 ゆっくり考え、すばやく動く
プロジェクトに関する(報告される)データは当てにならない
プロジェクトは「一定の期日までに、一定のコストで完成させ、一定の便益をもたらす」という約束の下で実行される
では、約束通りに実現する確率はどれくらいか?
1990年代、著者が研究をはじめた当時は、それに答えられる人がいなかった
著者は輸送プロジェクトからデータを集めはじめた
5年ほどかけて、258件のプロジェクトを分析し、データベースを構築した
結果どうだったか
コスト見積もりは、最終コストを平均28%も下回っていた
見積もりの9割が、実際のコストよりも低かった
マッキンゼーと協力してITのプロジェクトも調査しはじめた
ITも同様で、輪をかけてひどかった
共通して「予算超過、工期遅延、便益過小」→メガプロジェクトの鉄則
オリンピックなどのイベントも同様
世界中で共通のパターンが見られた(真面目なドイツでも、正確なスイスでも)
現状のデータベースは、136カ国、20種類の、1万6000件を超えるデータ
(最近のデータは新しい傾向が見られるものの)大まかには、予算内・工期内に完了するプロジェクトは、全体の8.5%、予算・工期・便益の3点ともクリアするプロジェクトは、0.5%
予算の超過を予備費でケアという対策は?
プロジェクトの結果の分布はシンテールか、ファットテールか?
ITはファットテール
核廃棄物貯蔵プロジェクト、オリンピック、原子力発電所、大型水力発電ダム、空港、防衛、大型ビル、航空宇宙、トンネル、採掘、高速鉄道、都市鉄道、在来鉄道、橋、石油、ガス、水関連のプロジェクトすべてがそう
ファットテールではないプロジェクトもあるにはある
ほとんどの大型プロジェクトは、ただ計画通りに実現しないリスクがあるだけではないし、ただ大失敗に終わるリスクがあるだけでもない。破滅的な失敗に終わるリスクがある。
小型プロジェクトでもファットテールを免れない
複雑系の内部ではファットテール分布の方が典型的
野心的で、多くの人や要素が関わっているなら、それは複雑系に組み込まれている
破滅の窓
実行期間が長いほど、アクシデントのリスクにさらされている
では、どうするか?
厳しい期限?
間違ったアプローチ
「前」に時間をかける
二つのフェーズ
計画と実行、開発と制作、設計と建設

あるいは準備・実行・後始末
「まず考え、それから動く」
>プロジェクトはビジョンから始まる。ビジョンはプロジェクトの漠然とした完成イメージでしかない。計画フェーズではただのビジョンを、信頼性の高い実行のロードマップとなる、徹底的に調査、分析、検証された詳細な計画に変えなくてはならない。
計画フェーズなら、試行錯誤のコストは低い
計画ゆっくり進めることは安全であるだけなく、優れた方法でもある
計画を立てるためには考える必要がある。そして、創造的で多面的で注意深い思考は、ゆっくりとしたプロセス」
うまくいかなくなるのではなく、最初からうまくいっていない
不十分な計画では、「故障と修理のループ」が起こる
>計画立案をフローチャートを埋めることだと誤解している人が多い。そして、実際にそれですまされることがとても多い。だが、そんなことではいけない。

計画するとは何をすることなのか?
フローチャートを埋めることでもなく、ただブレイクダウンすることでもない
ナチュラル・プランニングの限界を知ることが大切
「計画という名に恥じない計画」を立案する
2章 本当にそれでいい?
早い段階で、考えが固まってしまう(固定化、コミットメントの錯誤)
なぜそれが起こるのか?
戦略的虚偽表明(権力)
規模が大きくなるほど、権力が関わってくる
心理バイアス
楽観主義と「やればできる」の姿勢は必要
しかし、パイロットが楽観主義では困る
>楽観主義が過ぎると、非現実的な予測を立て、目的を見きわめず、よりよい選択肢を見過ごし、問題の特定も対処もせず、不足の事態に備えなくなる。それにもかかわらず大型プロジェクト
手持ちの情報だけで十分だと判断してしまう(正しいと感じられる)
計画の錯誤
ホフスタッターの法則
将来のことを考えるとき(予測)に、過去の経験を無視する

今回は違う、生まれ変わった
ベストケースだけを想像している
行動へのバイアス→「まず、やってみる」
コストの問題がある
計画立案はプロジェクトの一部
見たものがすべてだと思わない
早く決めないと肝に銘じる
3章 「根本」を明確にする
そもそも何を求めてプロジェクトを行うのか。それを問う
「ゆっくり」はあくまで結果
ただ時間をかければよいというわけではない。
綿密な企画は、実際以上に確実な計画だと誤解してしまう失敗もある
>よい計画立案は、提案し、想像し、分析し、検証し、試行錯誤する。これは時間のかかるプロセスだ。つまり、よい計画を立てた結果として「ゆっくり」になるのであって、「ゆっくり」すればよい計画ができるのではない。
プロジェクトは、それ自体が目的であることはなく、目的を達成する手段に過ぎない。
右から左へ考える
アマゾンのPR、FAQ方式
右から左に考えることは自然なことではない
アイデアにほれ込んでいるとき、プロジェクトの設計にのめり込んでいるとき、細部に没頭しているときなどは「右」が目に入らない
4章 ピクサー・プランニング
計画立案は、抽象的で形式的な思考と計算の行為ではない
ラテン語の同士「エクスペリリ」
エクスペリメント、エクスペリエンスの語源
実験と経験を計画立案に活かす
5章 「経験」のパワー
先行者、経験者から学ぶ(先行者利益はほぼ幻)
技術は凍れる経験(フリードリヒ・フォン・シェリングは建築を「凍れる音楽」と述べた)
永遠の初心者症候群
反復で作られたエンパイア・ステート・ビル
1階建てのビルを102個建築した
反復で磨かれた直感は当てになる
6章 唯一無二のつもり?
類似するプロジェクトのデータを参考にする
独自の調整は限定的に
参照クラス予想法RCF
7章 再現的クリエイティブ
生存者バイアス&一発屋
8章 一丸チームですばやくつくる
9章 スモールシング戦略
巨大なものは完成するまで利益を生まない
モジュール性(小さいもので大きいものをつくる)
反復は実験を可能にする。経験も増えていく。
工場でパーツを製造して、現場で組み立てる方法が効率的なのは?
ファットテールではないプロジェクトのタイプ
太陽光発電、風力発電、化石燃料発電、送電、道路