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9920_心地よさは、隠れた配慮に支えられている
「ビフォー・アフター」という、リフォームのテレビ番組があります。もちろんこれは、「住まいのビフォー」と「住まいのアフター」を指しています。しかし、星合さんのお住まいのリフォームで、もっとも変化したのは、設計者である私自身でした。と言うのも、星合さんからは、たくさんのことを教わったからなのです。

私が当時、朝日新聞に連載していたコラムが目にとまり、以前から計画していたリフォームを、お願いしたいと連絡をいただきました。初めて訪問したときに、ニコニコと記事のスクラップ帳を見せていただきまして...。心地よさほんとうの住まい2017.09.08
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このお住まいは当時の建築家が設計をした、大屋根が美しい木造2階建て。縁側のような書斎と、浴室と洗面室も、増築して欲しいとのことでした。また、気軽に庭に出やすいように、勝手口もつくりたいとのことでした。

高齢になると、友人や来客を招く機会は少なくなるので、応接間は寝室にすることになりましたが、それには、もうひとつの理由がありました。
このお住まいには、すでに快適な寝室があり、その部屋で、お母様の介護をしていたそうです。そのことをあまり思い出したくないので、今回のリフォームでは、ご自身の寝室を新たにすることになったのです。

プランが確定したときに、こんなエピソードがありました。事務所のスタッフが、星合さんにこう尋ねたそうです。

>「大瀧は、東南の角の一番日当たりのいい場所に、」
>「浴室と洗面室を配置したのですが、本当にいいのですか?」
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星合さんは、答えたそうです。

>「入浴も洗面も朝日のさし込む中の方が、気持ちがいいもの」
>「あなたも私くらいの年齢になるとわかるわ」
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「明るくゆったりと読書ができる書斎をつくりたい」というご希望に答えた、サンルームの様な書斎です。

好きな読書に没頭できるように、椅子の後ろにある引き戸を開ければ、すぐにトイレがあります。また、隣の寝室に戻れば、ベッドに横になることもできます。「居心地のよさ」は、そんな隠れた配慮に支えられています。

このひとに出会わなかったら、自分の運命は変わっていただろうと、思うひとが何人かいます。星合さんも、そういうひとでした。星合さんは私にとって、大切な住まい手さんであり、厳しい、バリアフリー住宅のご意見番でもありました。
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