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能力はどのように遺伝するのか
発行年 : 2023 年

優生学などと隣り合わせ
古典的な双生児法を中心とした伝統的なもの

1 章 遺伝子が描く人間像
遺伝的多様性が人と人の間に存在する
遺伝的に同じ条件の人は、一卵性双生児のきょうだいのみ
ヒトは遺伝的に、99.9 % は同じ
ヒトゲノムプロジェクトの成果としてクレイグ・ベンターによって発表された
ヒトの遺伝的差異は、遺伝子の圧倒的同一性の大海に浮かぶ小島ほどの形の違いでしかない
ヒトの遺伝子は 30 億の塩基対から成るので、0.1 % でも 300 万か所
一塩基多型 (SNP) : 構造遺伝子や調整部分の遺伝子について、塩基のひとつが変わるだけで意味が異なってくる可能性があり、この 1 つの塩基の個人差をいう
人種」 は生物学的に区別できる分類概念ではない
形質の頻度の分布型の違いでしかない
遺伝子発現のダイナミズム
DNA の遺伝情報は、必要になった際、プロモーターの働きで mRNA (メッセンジャー RNA) に転写され、リボソームアミノ酸に置換されて数珠を伸ばし、タンパク質に合成される
この一方向の流れをセントラルドグマという
獲得形質遺伝しない

2 章 才能は生まれつきか、努力か
心理学では知能観という研究
努力で変わりうると信じる人の方が、勉強に前向きで成績も良い
双生児法により、人間のあらゆる行動や心の働きに遺伝の影響があることがわかっている
パーソナリティの遺伝率は 50 %、残りは非共有環境
「心は全て遺伝的である」
遺伝の関与しない心理的形質はない (完全に遺伝で決まるわけではない)
才能も心理的形質の一種
「生まれつき」 や 「天性」 といったものは表現型であり (非学習性の心的機能)、遺伝ではない
努力してもパーソナリティが変わるわけではない
内向的な人が外向的に振る舞うことはできても、外向的になるわけではない
知識は学習で蓄積される
記憶と言っても良い
知識を使えるとき、能力がある
才能は、能力の中でも特に、他者から価値があると評価される能力のこと
遺伝か環境か?
2 つの軸 : 内在か外在か、不可変か可変か
外在だが不可変のものを社会学で 「生まれ」 と言ったりする
育ての親や生まれ落ちた地域社会、時代背景など
能力のひとつとして、知能について考える
情報処理の二貯蔵庫モデル認知心理学において標準になっている

3 章 才能の行動遺伝学
遺伝率という概念は行動遺伝学の基本
遺伝率とは、ある特定の社会における表現型の全分散のうち、遺伝子型の分散で説明される割合のこと
行動遺伝学は分散の学問
統計学でよく用いられる分散標準偏差
表現型の分散は、遺伝による分散 (Vg) と環境による分散 (Ve) から成り立つ
全分散 Vp = Vg + Ve
分散は分解可能 : 分散分析
複雑な性別と年齢の交互作用が見て取れる
ジェンダーアイデンティティ (性自認) は環境によって形成されるのではなく、本来もっている遺伝的なものだが、成長とともに社会からの規範的要請により押し殺されている、ということを示唆しているように思える
知能を司る前頭頭頂は遺伝率が 90 % 程度
個人的な記憶や自己を司る内側側頭帯状回では、相対的に非共有環境が大きい → 個人的な経験が脳の構造にも関与
自己に関わる機能を持つデフォルト・モード・ネットワークは、実行機能の中枢である前頭頭頂ネットワーク顕著性ネットワークとは直接の関係を持たない

4 章 遺伝子が暴かれる時代
1996 年、心理的形質遺伝子の関連が相次いで報告
教育年数のポリジェニック・スコア (PGS) の調査
IQ の代わりに最終学歴を使うことで、多くのサンプルを確保

5 章 遺伝子と社会
疾患や能力、パーソナリティに遺伝的な理由で何か問題があると、遺伝を悪とみなして、薬物や教育、遺伝子編集などで環境に合わせようとしがち
ヒトの息苦しさをなんとかするには、環境を遺伝子に合わせるべきではないか
科学は価値中立であることが求められるのが基本だが、こと遺伝に関しては優生思想差別意識などに結び付けられてきた歴史があり、科学者として 「価値中立であるべき」 という立場に留まるべきではない
「自立した人間」 を育てるべきなのか?
政治でも教育でも、現代では遺伝的な個人差を考慮することはなされづらい
遺伝はタブー視されがち
不当に無視され、誤解されている状況