(5.2.4.6) 家族的類似性
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Fig: A family
「家族」はグループです。このグループのメンバーの全員に共通する特徴は必ずしもありません。すべてのメンバーに共通するような特徴がなくても、部分的に共通する特徴によって全体が緩くつながり、グループを形成することができます。
「
家族的類似性」という言葉は
ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインが作った。彼は「ゲーム」という言葉が指すもののグループが、共通の特徴を持っているかどうかを考察し、すべてのゲームに共通する特徴があるのではなく、互いに重なり合う複雑な類似性の網目があるのだ、と主張した。家族的類似性でつながったグループのことをシンプルに「家族」と呼んだ。
私はこう解説した:
>関係のありそうなものが見つかったら、その2つのふせんが近くに来るように移動します。これを繰り返すことで、互いに関係のありそうなふせんのグループが徐々に形成されていきます。
分類は「グループに共通する特徴」(criteria)を先に決めて、その特徴の有無でグループのメンバーかどうかを決める。一方でKJ法の
グループ編成は、個々のメンバーの間に関係があるだけで、共通の特徴は必要でない。これは家族的類似性の考え方によく似ている。
「共通の特徴を持ったグループを作らなければいけない」というとらわれを解除するアドバイスが必要そうだ。
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家族的類似性に関して面白い実験がある。
Norenzayan, A., Smith, E. E., Kim, B. J., & Nisbett, R. E. (2002). Cultural preferences for formal versus intuitive reasoning. Cognitive science, 26(5), 653-684.
ターゲットオブジェクトはどちらのグループに似ているか?この質問に対して、European AmericansとEast Asiansは真逆の回答をした。
2通りの考え方を掘り下げてみよう。
この花には4つの属性がある
属性1: ターゲットの花びらは丸い、グループ1は3/4の花びらが丸い、グループ2は1/4の花びらが丸い
属性2: ターゲットの花の中心は一重丸、グループ1は3/4が一重丸、グループ2は1/4が一重丸
属性3: ターゲットには葉がついている、グループ1は3/4に葉がついている、グループ2は1/4に葉がついている
属性4: ターゲットの茎はまっすぐ、グループ1は0/4の茎がまっすぐ、グループ2は4/4の茎がまっすぐ
この状況で、ターゲットをグループ1に入れるか、グループ2に入れるか。
Rule-based: 属性1~3はグループを明確に切り分けるものではない。属性4こそがこの2つのグループを分ける基準であり、その基準に従えばグループ2に入れるべきだ、という考え方。
Family resembranse-based: 4つの属性のうち3つが「グループ1の方が近い」と示しているのだから、グループ1に入れるべきだ、という考え方。
興味深いことに、似ているのはどちらか、ではなく、どちらに分類すべきか、という問いだとEast AsianもRule-basedの判断をする。つまりEast Asianは分類と類似を別物だと考えているのに対して、European Americansはそれを区別していないということだ。
Rule-basedは判断の理由を他人に説明しやすい。「茎がまっすぐならグループ2である」という明確な命題にすることができる。一方で、ノイズに弱い。この例では属性4できれいに切り分けることができたが、もしノイズが入って属性4でも切り分けることができなかった場合、Rule-basedでは「この2つを区別する明確な基準は存在しない」という思考停止に陥る。また、属性の一部が観測不能である場合にも弱い。たまたま属性4が観測できなかった場合は判断が逆転する。
Family resembranse-basedは、ノイズにも強く、観測不能にも強い。しかし判断の理由をシンプルに説明できない。あえて説明するなら「花びらが丸ければグループ1に1票、花の中心が一重丸ならグループ1に1票、葉がついていればグループ1に1票、茎がまっすぐならグループ2に2票。合計して票の多かった方のグループとする」というルールになる。
KJ法は日本というEast Asiaで生まれた。川喜田二郎は「分類ではない」を強く主張した。家族的類似性の考え方を知ることで、ヨーロッパ系の人にわかりやすくなるのではないか。