>人々が「共通な関心事」について語り合う空間のことを指し、「公共性」と訳されることもある。政治哲学者アーレントが、古代ギリシャのポリスにおいて、市民たちが対等な資格で政治や哲学について語り合ったことを「公的領域」と呼んだことに始まる(『人間の条件』〈1958年〉)。
>ドイツの哲学者ハーバーマスはこれにヒントを得て、近代の市民や貴族が、コーヒーハウスやサロンや読書会において対等に議論し合ったことを「公共圏」と呼んだ。小説などを媒介とした語り合いは「文芸的公共圏」、世論を形成して政治に影響力を与えるようになると「政治的公共圏」と呼ばれる。
>最近のハーバーマスは、こうした悲観的な見方を訂正し、公共圏を現代でも成り立つものとして積極的に捉えるようになった。公共圏という言葉が現在注目される理由の1つは、各人がそれぞれの関心と趣味の領域を生きるポストモダン状況において、社会に対する「共通の関心」を作り出すことが求められているからであり、また文化の異なる人々同士が地域において共生していくために、住民としての「共通の関心」を軸にしたつながりが求められているからである。
> (西研 哲学者 / 2007年)