Pythonで学ぶフーリエ解析と信号処理
著者は数学出身
2020
>1章では,本書で頻繁に使うPythonのライブラリであるNumPyとMatplotlibについて概略を説明します。2章から7章まではフーリエ級数,フーリエ変換の数学的な説明で,8章,9章では,実際の信号の周波数解析を行います。10章はルベーグ積分のユーザーズガイドになっています。
>ゴールは音声データ(wav形式の子猫の鳴き声のデータ)のスペクトログラムを描くことです。
>これは音声データの時間ごとの周波数情報を表現するもので,短時間フーリエ変換という技術を使って実現できます。
>ここまでできれば1次元の信号処理の基本はわかったことになり,これを土台にして,より専門的な信号処理を学んでいけるはずです。
> 本書において,重要なポイントでは数学的に厳密な議論をしています。厳密な数学的議論の大きな利点は二つあります。
>第一の利点は,(関数解析を基礎とした)より高度な信号処理の理論を学ぶハードルが大きく下がることです。例えば,ウェーブレット解析などを学ぶには厳密な議論を避けて通ることができませんが,本書で学べばスムーズに学習が進められるでしょう。
>第二の利点は,ハードウェアでの信号処理まで含めた場合に必要となる,アナログ信号に対するフーリエ解析が理解できるようになることです。本書ではディジタル信号処理を扱いますが,フーリエ解析部分は,アナログ信号処理の基礎にもなっているのです。
> 二十年近く,工学部でフーリエ解析を教えてきました。その間,さまざまな教科書を使ってきましたが,いずれも偏微分方程式への応用が中心で,信号処理への応用にはあまり言及されていないものでした。しかし近年,電気系,情報系では,偏微分方程式への応用もさることながら,それ以上に信号処理への応用が求められています。信号処理では,時間とともに変化する信号を周波数で見ることが重要になります。しかし,偏微分方程式への応用では「周波数」の物理的意味については副次的にしか扱われません。
> 信号処理を教えるため,既存の信号処理の教科書に目を通してみると,実践的に書かれたものでは数学的な厳密さが犠牲に,厳密に書かれたものでは実践が犠牲になりがちな傾向にありました。
> このようなことが起きるのは,実際の応用では,ディジタル信号処理をする前の測定段階で,ハードウェアによって高周波成分がカットされており,そのような帯域制限された信号を離散フーリエ変換すればよいためです。ディジタル信号処理で必要になる離散フーリエ変換は有限和ですから,極限操作は自由にでき,連続信号を扱う際に生じる極限操作の問題が前面に出ないからです。しかし,離散フーリエ変換は連続フーリエ変換の近似ですので,連続の問題についても正確な議論をすべきだと思いました。
> これらの観点から,講義を数年がかりで信号処理向きに修正し,その際に作成した講義ノートが本書のもとになっています。10章には,ルベーグ積分のユーザーズガイドがあります。ルベーグ積分は数学科以外ではほとんど教えられていないために,不当に無駄なものだと思われているようですが,ごまかしなく議論するには必要な数学です。使うだけならそう難しいものではありませんので,是非この機会に読んでみてください。本書がより発展的なIT・数学を学ぶための基盤となれば,望外の喜びです。
もくじ
1.Pythonと便利なライブラリたち
1.1 本書でよく使うライブラリ
1.3 関数のベクトル化
章末問題
2.1 関数を級数展開することで何がわかるのか?
2.2 周波数情報を取り出す
2.3 Pythonでフーリエ級数部分和を見てみよう
2.4 連続でない関数のフーリエ展開の例
2.5 半区間展開
章末問題
3.関数の直交性
3.1 関数の世界に内積を導入する
3.5 フーリエ係数の最適性とベッセルの不等式
3.6 その他の直交関数系
章末問題
4.ギブス現象と総和法
4.2 ひげが残り続けること
章末問題
5.1 実フーリエ級数を見直す
5.2 実例を見てみよう
5.4 関数の滑らかさと複素フーリエ係数の関係
章末問題
6.1 フーリエ変換の導入
6.2 フーリエ変換の基本的な性質
6.3 フーリエ逆変換
6.4 フーリエ変換・逆変換の例
章末問題
7.フーリエ変換の諸性質
7.1 L2条件
7.4 フーリエ変換の減衰オーダと滑らかさ
章末問題
8.3 Pythonを使って周波数情報を取り出す
8.4 FFTのアルゴリズム
8.5 あえてPythonでFFTを作る
章末問題
9.Pythonでスペクトログラム
9.2 窓関数を掛けた信号のFFT
9.3 窓関数の周波数特性の見方
9.6 wavファイルのスペクトログラム
章末問題
10.1 本章の方針
10.2 「ほとんどいたるところ」ってどういう意味?
10.3 積分の定義と役に立つ極限定理
10.4 リーマン=ルベーグの補題
10.5 積分の順序交換
章末問題