dazaikaisetu酒は飲んでも、「斜陽」の直治のように、少しも楽しくなかったにちがいない。それに費消した金は決してわずかではなかったにせよ、妻子に窮迫した生活を強いて家をかえりみなかったというのは伝説にすぎない。彼は、それほど強い男ではなかった。大谷や上原二郎に太宰は自分のある面を仮託してはいる。しかし、それを太宰自身ととりちがえることは、あまりにも素朴な錯覚といわなければならない。
一人称で語られたいわゆる私小説めいた作品においても、太宰は虚構の粉飾を施さずにはおかなかった。太宰治は、骨の髄までの小説家であった。