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洛西一周と増井俊之が語る、ドッグフーディングの重要性と、Gyazoで挑む世の中の課題解決
これまでの累計のキャプチャー数は10億枚以上。国内のみならず、海外にも幅広いユーザーを持ち、世界中で1000万人が愛用するGyazo

スクリーンショットを使ったキャプチャーツールとして開発されたGyazoは、使えば使うほど、その汎用性の高さに驚きの声があがり、コミュニケーションと情報収集のためのツールとして高い評価を得てきました。

大きな可能性を秘めるGyazoですが、開発者はどんな想いで世に送り出しているのでしょうか。NOTACEO洛西 一周と、CTO増井 俊之が、Gyazoに込めた哲学と理念、運営方針をロングインタビューでお届けします。



増井が洛西に声をかけ、はじまったふたりの歩み

——まずはそれぞれのご経歴からお聞かせください。

増井俊之(以下、増井):これまでシャープソニーAppleなどで、エンジニアとしてユーザー・インターフェースの研究を行ってきました。今ではメジャーになった、携帯の予測入力の開発と商品化は私が最初に手がけており、Gyazo、Scrapboxも実績のひとつです。現在はNotaでCTOを務めるとともに、慶應義塾大学で教授をしています。

洛西一周(以下、洛西):高校時代に開発したソフト「紙copi」からプログラマー人生をスタートさせました。ユーザーが増えるなかで、IPA未踏ソフトウェア創造事業という、個人のプログラマーに経産省が助成するプロジェクトのマネージャーだった増井さんから声をかけてもらったのが僕らの出会いです。そこで2年ほど経験を積み、その後、増井さんの同僚や知り合いの紹介で研究室に入り、開発の知識やスキルを磨きました。

——一緒にビジネスをはじめるまでの経緯を教えてください。

洛西:25歳のとき、DeNAの共同創業者の川田 尚吾さんから「海外で挑戦するなら投資する」とのお申し出をいただき、Notaを設立して、そこから経営的な勉強をはじめました。
で、アメリカのシリコンバレーに行ったら、ちょうど増井さんがAppleに転職していて、再会したんです。なんと増井さんの家に住み込むことになりました(笑)。

増井:Appleがかなり広い家を用意してくれていたので、「うちに住んでも大丈夫だよ」と声をかけました(笑)。お互い示し合わせて合流したわけではなく、本当に偶然の再会でしたね。

洛西:シリコンバレーで3年経験して、ふたりとも日本に帰国したのですが、業績が順調に伸びていたこともあり、帰国後にベンチャー資金を投入して拡大することにしたんです。増井さんは慶應の教授に就任していましたが、CTOとしてジョインをお願いして、「じゃあ一緒にやろう」と。それが今から3年前の2014年の末ですね。

画像認証を研究する過程で誕生したGyazo



——なぜGyazoを開発したのでしょうか?

増井:Gyazoはビジネス展開を視野に入れて開発したサービスではありません。画像認証システムを開発する過程で、システム運用に必要だったので作りました。

個人認証といえば現在はパスワード入力がメジャーですが、パスワードは忘れてしまいがちだし、入力が面倒ですよね。そこで、開発者のあいだでは試行錯誤するなかで、「パスワード文字列を使用するより、画像を使った認証がよいのでは?」という概念が登場し、並んでいる複数の画像から自分が知っている画像を選ぶ、あるいは画像の一部をクリックすることで認証を行なう手法が提案されてきました。私自身は、秘密の画像と答えのリストを用意し、正しい答えを選ぶことによって認証する手法を実験していたんです。

ただし、画像認証システムを運用するためには、大量の画像を用意しなければならない。では、画像をどう集めようか?と考えたとき、ウェブ上の画像を流用するわけにはいかず、新たに画像を作成する必要がありました。その画像を作成する手段がなかったことから、画面上のなにかをキャプチャーして画像にするシステムを開発しよう、と。こうした着想からGyazoの開発に至ったのですが、後にもっと幅広い用途に使えることに気づいた、というわけです。

洛西:増井さんがGyazoを開発したのはシリコンバレー時代でしたが、予想以上にユーザーが伸び、「これは大変なことになった!」とサーバーのコストが急激な右肩上がりになりました。そこで、「もうちょっといけるんじゃないですか?」と進言させてもらったところ、「Gyazoを管理してみない?」と言われて。

Notaとして複数のプロダクトを展開していましたが、「じゃあ僕がやります」という流れでGyazoを担当することになりました。当初はお金にするつもりはいっさいなくて、増井さんの趣味のプロジェクトをNotaのサーバーの一角で管理する、といった感覚だったんです。ただ、ツールとして僕もすごく気に入っていましたね。

——開発当時と現在とでは機能に大きな違いはありますか?

洛西:「キャプチャーして、一瞬でウェブ上にアップロードされ、共有できる」という基本コンセプトはまったく変わっていません。この機能は開発時からありました。ウェブへのアップを簡単にしたのがGyazoです。

——「自分だけが見れればいい」というサービスにはしなかった、と。

増井:まったく考えていませんでしたね。どこからでも見れて、人にも見せられることが重要なので、他人からはわからない複雑なURLを使って画像が共有できる機能は当初から一貫しています。

洛西:当時の主流は、アカウントを作成して画像をアップロードし、共有ボタンをクリックすると共有できるFlickrだったんです。Gyazoはそもそものアプローチが異なり、URLにパスワードのような文字が付いていて、知っている人しか見ることができない、というもの。これが簡易的な認証にあたります。手軽に秘密の画像を共有できることが大きな特徴ですね。

——URLの長さを指摘されることが多いそうですが、その背景に画像認証の概念があったからなんですね。

増井:簡単に推測できるものではなく、ハッシュ関数を用い、想像して入力しても絶対にたどりつかない手法を採用した結果です。

洛西:たどりつかないですね。天文学的数字になるので(笑)。それが非常にユニークで、普及の一因になりました。

——同様のキャプチャーツールがなかったからGyazoを開発した、ということですね?

増井:画面の一部を取得できるものはありましたが、自動的にウェブ上にアップロードされるサービスはありませんでした。

洛西:最初にマーケットに参入したことも、Gyazoの普及化の要因のひとつですね。競合ゼロでしたから。現在ではデフォルトになりましたが、当時はまだウェブやクラウドとの連動を重視する開発者やユーザーがいませんでした。

スマートフォンのアプリだと、たとえばGoogleマップなら、ウェブで情報を取得して、アプリの地図上に反映させる、といったようにアプリとウェブが連動していますよね。ところが、当時はマイクロソフトのWordなど、ソフトやアプリで完結していて、ウェブを介するのであればメール添付などが主流でした。アプリからウェブにダイレクトでつなげる概念自体がほとんどなかったんです。

増井俊之の哲学「作るのも使うのもすべて簡単であること」



——Gyazoには増井さんの哲学が反映されていると感じますが、具体的にどんな哲学をお持ちかを教えてください。

増井:「作るのも使うのもすべて簡単であること」を目指しています。

たとえば、日本語入力システムならMS IMEやGoogle日本語入力、ことえり、ATOKなどがメジャーですよね。私個人は自前のシステムを使用していますが、プログラムが1000行もありません。800行くらいでしょうか。多いか少ないかでいうと、ものすごく少ない。通常は何十万行にもなると思います。

では、なぜ800行で運用できるのかというと、シンプルだけれどしっかりと使えるアルゴリズムを採用したからです。

——「すべて簡単」は、誰もが納得しますね。簡単にしたいけれど、できないから何十万行になってしまうわけですから。800行で運用するためのポイントを教えてください。

増井:自分だけが使うということもありますが、そもそも漢字変換でいえば、やらなくていいことまで実行しようとするからむずかしくなるんです。

たとえば、「今日は医者に行きました」とまとめて変換しようとすると、「きょう、は、いしゃ、に、いきました」と分割する必要がある。「きょう」は「今日」なのか「京」なのか。もしくは「今日歯医者に行きました」かもしれない。間違える可能性が高いものを解析しようとするので、どんどん複雑になるんですよ。ひらがなを漢字に変換しなくてはいけないし、意味も解析しなくてはいけない。やらなくていいことまでやろうとした結果、長くなるわけです。

携帯の予測変換で考えてみてください。「きょ」と入力すると「今日」という 候補が表示されます。で、「今日」を選択すると、続いて「は」が出てくる。 「きょうは」と入力する必要がなくなるんです。それでいいじゃないか、と。

つまり、アプローチを変えた、ということ。簡単だし、文法を考える必要がありません。「きょう」だけでもいろいろとありますが、「今日」や「京」など 並べておけばいいだけ。今日の次に「は」が表示されるのは、よく使用する助 詞と考えておけばいいわけです。

現在では予測変換はメジャーになった概念ですが、昔はそういうことを言うと笑われて、「全部打って変換すればいいじゃないか」と反論されていました (笑)。とはいえ、みんな楽なほうがいいんですよ。いつのまにか「全部打って 変換しなくてもいい」に変わっていきましたね。

洛西:本来、ITシステムとは、仕事や生活における複雑なものを簡単にする目的で開発されなければならないんですよ。にも関わらず、複雑なものをそのままシステムにしてしまうケースが多いですよね。「ITシステム作ってみました!」と言われて見てみると、むしろさらに難解に、より面倒くさくなっていることも少なくありません。

増井:だからこそ、Gyazoも自分たちだからシンプルに作ることができた、と自負しています。Gyazoの場合、まず画像をアップロードできればよかったので、汎用性は重視していなかったこともありますがね。その後、応用の幅が広いことがわかり、結果として予想以上に普及した、という感じです。

洛西:問題を解決する、というのが大きかったですよね。

増井:問題をシンプルに解決する方法を生み出すのが好きなんですよ。コロンブスの卵と同じで、世に出すと「そんなの当たり前」と言われてしまうのですが(笑)。

源流にある「ドッグフーディング」と「ユーザーの近くで作る」

——増井さんとNotaの哲学や考え方として、「ユーザーの要望や問題を今すぐ解決することが必ずしも大事ではない」があるそうですが、具体的に教えてください。

増井:受託で開発しているわけではないので、ユーザーが要望してきたからといって「絶対にやらないといけない」は優先順位として上位に来ない、ということがひとつですね。

洛西:ビジネス的には、解決した幅が大きいほうがインパクトがあり、利益になります。新たな課題の解決とは、ユーザーからの要望ではありません。もともと存在しなかったことを新しいアイデアで解決するため、そもそも要望が来るわけがないんですよ。

増井:どんな新発明でもそうですが、ユーザーの声を聞いて実行することはありえません。ローンチしたサービスや機能が受け入れられるかどうかは、ユーザーに聞かないといけませんが。

洛西:増井さんはAppleにいたので、余計にそう感じるでしょうね。

増井:そのためにはカリスマ性や説得力も大事ですがね。昔、スティーブ・ジョブズがAppleに復帰した際、リリースされたのがiMacです。結果的にヒットしたのですが、iMacにはフロッピーディスクが搭載されていませんでした。

当時のパソコンといえば、フロッピーディスク付きが常識です。ところが、ジョブズは「そんなものはいらないだろう」と外し、CD-ROMとUSBだけにした。「USBがあればいいんだ。フロッピーディスクなんていらないんだ」とジョブズが宣言したから、誰もが信じた。

一般的にはなかなかむずかしいのですが、私自身も一刀両断というか、「勝手に機能を増やさない」といった哲学は貫いていますね。

洛西:その哲学や考え方のほうが、ビジネスもうまくいくし、開発者も幸せなんですよ。プログラマーが好きなコンセプトがいくつかありますが、そのひとつが「ハッカーの三大美徳」。

増井:「怠けるために努力をする」ね。

——そうした哲学や考え方をべースに、Gyazoは進化してきたわけですね。どういうふうに進化したのか教えてください。

洛西:代表的な機能でいえば、タグの芋づる検索はGyazoが進化する過程で生まれたひとつです。

ちょうど今から7年前、芋づる検索の実験をはじめました。製品化までに一度挫折しているのですが、Gyazoの機能として生き残り、実装にこぎつけたのが3年前です。この芋づる検索機能は、Scrapboxにもつながっています。

増井:自分自身で使用しながら気づいたんですよね。「タグを付けておくと、画像同士がリンクされて面白いな、便利だな」と。

たとえば、「自転車」というタグを付けた画像が、いつのまにか子どもの成長記録になっていたんですよ。成長記録にするつもりでタグ付けしていたわけではありませんが、結果的に自然とそうなっていた。「あ、これはすごいな」と実感したんです。

そのおかげで、画像にタグ付けすることで、予期しない結果を生み出してくれたり、思いもしなかった使い勝手のよさにも気づけるんだな、と興味深いことがわかってきました。単なるキャプチャーツールではなく情報蓄積システムとして活用できる、と。

ただし、こうした“気づき”も、長年、自分自身で使っていないと閃かないんです。開発当初から「タグを付けて、こうアプローチすると、こうなるね」とはならないので。たまたま気づいたわけですから。

開発したサービスを開発者自身がユーザーとして日常的に使うことをドッグフーディングといいますが、私は常にドッグフーディングの繰り返しでエンジニア人生を送ってきているので、人より新しいことに気づく可能性が高いのかな、と感じています。

——あらゆる機能を開発するためのアイデアの源流は、ドッグフーディングによって生み出されている、と。「自分たちがこう使いたい。こうあるべし」と思ったものが基本になっている、ということでしょうか?

増井:基本的にはそうですね。「このファイルに直接上書きできるようになれば便利だな」といったように、自分で使いながら思いついたことを、もっと使いやすくするためにトライ・アンド・エラーを繰り返して、機能としてリリースしたほうがいいと判断したら搭載しています。

洛西:それから、ユーザーの意見は鵜呑みにしないけれど、ユーザーの近くで作っている、という例はありますね。

最近、力を入れている機能のひとつが、キャプチャーしたGIF動画の高クオリティ化です。さまざまなインターネット環境やデバイスがあるなかで、クオリティが高いGIF動画を速くダウンロードさせ、スムーズに再生することは簡単ではありません。

いかに最適なサイズでクオリティを満たすためのアルゴリズムを確立できるか?というところで試行錯誤していて、先ほど増井さんがお話しした「作るのも使うのも簡単」からはやや外れ、プログラムの行数が長くなってきているとはいうものの、多様なユーザーが簡単に使えるようにするために裏で工夫しています。

「ユーザーの文句は聞くけれど、意見は聞かない」の真意

——基本はドッグフーディングの前提で、ユーザーの肌感やニーズは機能やサービスに反映させている、ということですが、具体的なスタンスや理念を教えてください。

増井:「ユーザーの文句は聞くけれど、意見は聞かない」ですね。

洛西:増井さんがよく口にするこの言葉、かなり深いんですよ。

「文句を聞く」ということは、「課題を聞く」ということなんです。一方、意見は「こうやったらいいんじゃないの?」なので、残念ながら聞くことはできません。

ただし、「こんなことで困っている」という意見は聞きます。カスタマーサポートに寄せられた要望もよく聞いていますね。

増井:「意見は参考にする。鵜呑みにはしない」といったスタンスです。

——サポート部隊と開発部隊の距離の近さは、企業として大きな武器なのではないでしょうか?

増井:大手企業だと、文句を受ける部隊と作る部隊がまったく違い、距離が遠いこともザラですからね。それから一番最悪なのは、外注ですべて済ませる会社です。

弊社でも文句を受ける部署と開発部署は異なりますが、「文句を聞かない」となると「言いにくいな」になってしまうんですよ。そういう意味でも「文句は聞く」なんです。

洛西:「文句が来ました!」と言われると、「はい!わかりました!聞きます!」みたいなやりとりになっていますね(笑)。その空気感やポリシーのおかげで、全員「きちんと聞こう」というスタンスになっています。

インフルエンサーの影響力と、カスタマーサポートの距離感

——国内でもシェアを伸ばすGyazoですが、海外への広まりも普及化の大きな要因だと感じています。海外で人気に火がついた理由はなんでしょうか?

洛西:Google Chromeの開発者が、早い段階でブログで紹介してくれたんですよ。「このツールは最高だ!超イケてるぜ!」みたいな感じで。名の知れたインフルエンサーの厚意が、海外普及に大きな影響を与えてくれました。

増井:解説を作ってくれる外国人もかなりいるんですよね。もちろん、こちらから依頼したわけではありません。

洛西:解説のYouTube動画は50くらい出てきますね。多言語で展開されているのですが、各言語でそれぞれインフルエンサーが存在しています。「いいツールがあるので共有したくなる、宣伝したくなる」というのが動機のようです。

「すごいツールだ!」と気に入ってくれて、プロダクトそのものを評価してくれた結果として、わざわざブログ記事や動画を作成して紹介してくださったというのがうれしいですね。

——自発的に行った、自然発生した、ということですね。時期はいつ頃でしょうか?

洛西:Chromeの開発者のブログはGyazoのリリースからわりとすぐで、YouTubeで多言語の動画が投稿されるようになったのは3年後くらいからです。

それから、「普及しているんだな」と実感したエピソードがもうひとつ。社内では以前から、Gyazoを使うことを「Gyazoる(ぎゃぞる)」と表現していたんですね。よく「動詞で使われだすと流行った証拠」なんて言われていますが、ある日、社外どころか海外でも使われていることが判明したんです。海外だと「I Gyazo it!!」。それをTwitterで見つけたときはうれしかったです。

——プロダクトを気に入ったインフルエンサーが刺激してくれたことを発端に、結果として1000万人定着に成功した。

洛西:それは本当に大きいですね。Chromeの開発者のような名の知れた人物が周知してくれたことがまず決め手となったことに加えて、YouTuberやブロガーといった名もなき多くのインフルエンサーたちが積極的に展開してくれたので、非常に大きな反響になったんです。

——そうしたユーザーをフォローするカスタマーサポートは海外対応もしているそうですが、国内外問わず非常に評判がいいと伺っています。運営方針を教えてください。

洛西:まず、どんな些細なことでも全員に返事をしていることがポイントでしょうか。カスタマーサポートの対応として稀じゃないかと思います。それから、迅速かつ丁寧を心がけていること。ユーザーとの距離も近いですね。

——なぜ「全員に返事をする」という方針にしたのでしょうか?

洛西:現在のカスタマースタッフが自発的にそうしたんです。コンシューマーサービスとして透明性高くやってきた、ということがもっとも大きな理由だと感じています。「Gyazoはサポートが早い。ありがたい」という評判をよく耳にするので、中のスタッフもそうした声を励みにしながらがんばっています。

——問い合わせ内容は、使い方に関してですか?

洛西:使い方に関する質問がほとんどですね。「こういうことをやりたいんだけれど、できませんか?」に対し、「この機能をこんなふうに使えばできますよ」といったやりとりが多いです。その結果、「できなかったことができるようになった!」という想いから、感謝という気持ちにつながっているようです。

——ある程度の質問に対して、その場で解決できることが多いということですね?

洛西:ユーザーが思っている以上に、Gyazoはあらゆる機能を備えているからです。つまり、ほぼ想定内の質問なので、使い方の案内で解決できます。実は9割以上がそうなんです。

それから、先ほどお話しした「ユーザーの近くで作っている」が大きい。ドッグフーディングは常に課題意識をもたないといけないわけですから、開発時からユーザーの問い合わせに対する意識があり、ユーザーのその時々の課題の大きさ、小ささには非常に敏感です。だからこそ、問い合わせが来てもすぐに対応できる、と。

——そうした姿勢は、企業としての軸にもなっている、ということでしょうか?

洛西:「ユーザーがどう捉えているか」は、社内のScrapboxやSlackで常に共有されているので、全員が把握しています。Gyazoのみならず、こうした地道な積み重ねがあらゆるプロダクトを成功に導く、という意識は強いですね。

Gyazoの進化は、情報の整理、再利用の領域へ



——「作るのも使うのもすべて簡単」「ドッグフーディング」「ユーザーの近くで開発する」により進化してきたGyazoですが、それでは今後、Gyazoはどこを目指しているのでしょうか?あるいは、解決したい課題はありますか?

増井:Scrapboxもそうですが、「世の中の面倒くさいことをなんとかしたい」という想いがあります。

最近よく耳にするのが、「ファイル管理が面倒くさい」「どこにいったのかわからなくなってしまい、ほしいデータがなかなか出てこない」ということ。こうした“困った”をGyazoで解決できるようにしたいですね。

——ユーザーが使う容量が肥大化しているにも関わらず、管理するシステムが追いついていない、ということでしょうか?

増井:あらゆる整理法が提案されているものの、これで完璧だというものがないんですよ。誰もがどこかに不満があるわけですよね。それをGyazoでなんとかしたい。

たとえば、写真の管理システムならGoogleやFlickrがメジャーですが、「これだけあればもう大丈夫!」には至っていない。どこかに欠点がある。だからこそ、「Gyazoだけあればいいじゃん!」になればいいな、と。

——当初、キャプチャーという情報を共有するためのツールだったGyazoが、情報の整理や再利用の分野まで突き詰めようとしている、と?

増井:確実にその方向に進んでいますね。過去の情報の活用法もまだ浸透していないので、積極的に周知していきたいと考えています。

子どもの成長記録や旅行写真など、昔を思い返しながら「あのときはこうだったよね」と振り返る楽しみがあります。ビジネスであれば、資産といわれる名刺のデータがストックされていることで、当時のシーンや相手の特徴、人柄などとともに一元管理できて非常に便利です。

ユーザーが個人なら、思い出のフォトブックになる。企業なら、過去の情報資産が次のアクションの指針になったり、再利用や再活性といった方向性で役に立てることができます。

Gyazoは今後、こうした方向性をさらに突き詰めようとしているんですね。情報の整理や再利用に活用してもらうための周知はもちろん、より多くのユーザーが使いやすいサービスを目指していきたいと考えています。