第8話 突撃!企業のScrapbox活用事例 pixivさんの巻
前回はFiNCヘお邪魔したわかばちゃん。今回は、イラスト・漫画・小説の投稿や閲覧が楽しめるイラストコミュニケーションサービス「pixiv」を運営する株式会社ピクシブ(以下pixiv)へ行ってきました!
チームサイズが大きくなるほど、コミュニケーションパスが増える問題pixivのメンバー数は、ここ2〜3年で約2倍に増えました。
それに伴って、プロジェクトチームの人数も増えました。
たとえば、私が所属するpixiv Sketchのプロジェクトチームでは、リリース当初(2015年6月)はエンジニア4名でした。
今となってはエンジニア・デザイナー・運用など混成型になり、1チームあたりの人数は9名になりました。
チームメンバーが増えるっていいことなんじゃないですか?
いえいえ、そのぶん大変なこともあるんですよ。
チームサイズが大きくなると、ミーティングの時間が増えてきます。
暗黙知も増えてくるので、明文化するためのコストも高くなります。
人が増えれば増えるほど、何度も何度も、同じことを伝える必要が出てきます。そうするうちに情報の鮮度は落ちていきます。
なるほどー、確かに! メンバーそれぞれが今何を考えているのかがわからなくなってきそうですね。
そうなんです。
「この課題を解決できるツールがないかな」と探していました。
そこで目をつけたのが Scrapbox です。
Scrapboxを使い始めたワケ
私たちが叶えたいことはこうでした。
情報共有にかかるコストを下げたい、しかも楽しく
一人一人が明文化するコストを低くしながら、コラボレーションしやすい仕組みをつくりたい
情報の鮮度を継続的に保つ仕組みをつくりたい
これらを叶えてくれるのが Scrapbox です。
Scrapboxの特徴としては次の通りです。
箇条書きをコアにした記法で、簡単に書ける (投稿ボタンがなく、一文字でも書いたらページが出来る)
複数人でリアルタイム編集が可能
情報の関連付けが自動で行われ、高い一覧性・検索性がある
私なりに他の情報共有サービスと比較すると、次のようになります。
それぞれメリット・デメリットあるので、目的に合わせて選んでいます。
たとえばesaは、階層構造でドキュメントを管理できるので、日報や社内ドキュメントを書くのに使っています。
Google Docsは、印刷や納品するときなど、綺麗な文書を作るのに向いています。
「綺麗に書く、階層を分けて書く」っていいことじゃないんですか?
それってデメリットもあって。
「綺麗に書こう」という意識が働くと、ちょっとしたメモや細かい変更は気軽に残せなくなりますよね。
「何にも分類されないものや、カテゴリが複数にまたがるものは、どこの階層に書こう」と迷ってしまったり。
Google Docs: 美しい文章を作ろうとする意識が働いてしまう
ゴールが「ドキュメント」
Wordを意識した作りになっている
印刷・納品に向いている
共同編集すると、日本語の変換が変になることがある
Scrapbox: 綺麗にできないので適当に書くしかない(メリット)
複雑なことができない設計にしてある
気軽に書ける
日本で開発されているソフトなので、IMEに強い
クメール語などニッチな言語にも対応している
「動的にみんなで書く」に向いている
そういうわけで、Scrapbox を社内に取り入れてみることにしたんです。
具体的には、イテレーションミーティングをScrapboxでやり始めました。
このように、スケジュールを確認したり、共有事項を述べ合ったりしています。
イテレーションの中にはこんなコーナーがあります
共有:仕組みの変更など、チームへの共有事項
相談:困りごとがあったら相談する
感想:特に大事ではないが言わずにいられない感想
リアルタイムで更新できる
本当にやるべき議論だけに集中できる
というのが、Scrapboxでイテレーションミーティングをやるメリットですね。
効果:異業種メンバー同士の会話が活発化したScrapbox を導入した結果の効果としては次の通りです!
異業種メンバー同士の会話が活発化した
ミーティングの効率化、Slack上での議論が減った
今では、福岡オフィスとのリモートワークにも利用しています。
リモートワークにScrapboxを? どうやって使っているんですか?
これまでは、遠隔でのミーティングはビデオ通話を使っていました。
でも今は、「今からミーティングしますよ〜」と言って、Scrapbox上でミーティングします。
このとき、音声も繋ぎません!
すごい! 音声なしでもちゃんと伝わるんですか?
はい。しかも音声での通話と違って、他の人の発言を待たなくていいのが良いですね。
同時平行で書き込むことができるので、時間も削減できます。
さらに驚いたことに、異業種メンバー間での口頭での会話が明らかに増えたんです。
Scrapboxに書いているなら、逆に会話は減りそうなのに不思議ですね?
そうなんですよ。
Scrapbox上で「今誰が、何を考えているのか」「何に興味を持ち、何をしたいと思っているのか」という前提が共有できている。だから、それを土壌として異業種メンバーでも会話が広がるんですよね。
Scrapboxはコラボレーションを促進してくれるツールなのだと感じています。
輪読会でもScrapboxは大活躍!pixivでは、テーマとなる本を決め、学んだことをメンバー間で共有し合う輪読会(りんどくかい)を定期的に行っています。
この輪読会、今までは誰かがプレゼン資料を作ってきて 『1対多』で行っていたのですが、
Scrapbox を使い始めてからは『多対多』で進められるようになりました。
このように、それぞれがリアルタイムでパソコンで書いていて、書き込み自体が議論になっています。
会話による議論と違って、テキストとしてちゃんとあとに残るのもいいところですね!
社内に広がるScrapbox
最初はpixiv Sketchチーム内だけで使い始めたScrapboxですが、今となっては4つの部署が使っています。
pixivision (オウンドメディア)
Sketch
福岡
VRoid
使い始めるときは、それぞれのマネージャーに稟議を通すことにしています。
今、Scrapboxプロジェクトは分けていなくて、約60人で一緒に使っていますね。
Scrapboxは分けないんですね?
ええ、分けないことがいいことだと思っているんです。
他のチームが何をしているのかも見ることができますし、それによって活性化するものがあるからです。
もちろん、セキュリティに関しては閲覧・招待権限の管理も必要にはなりますが。
正直、大人数で使っていると、「フォルダ、1階層ぐらいはあったほうがいいんじゃないか」って思うこともあります(笑)。
でも、冷静に考えると「やっぱ(階層構造は)いらないな」と思います。
共通の単語で、誰かが書いた謎の記事と急に繋がるのが Scrapbox の楽しいところなので。
ミーティングが捗るbotを作った話
先ほど、ちらっとお話したイテレーションミーティングですけど、いくつか問題が出てきました。
まず、二度手間問題。みんなに共有したいことはSlackでも言うし、Scrapboxにも書きますよね。それって二度手間だなと。
次に、メンバーが気付いてくれない問題。Scrapboxで鮮度の高いネタを書いても、Slackの更新通知だけでは誰も気づいてくれないことがありました。
たしかに。Scrapboxが更新されたら公式アプリでSlackに通知することはできるけど、文章の途中までしか通知されませんし。
はい。そこで、SlackからScrapboxへ書き込めるbotを自作しました!
すごい!
思いついた時に宣言的に、みんなに見せつけるように書き込むというのが大事です。
Slackでリアルタイムにトピックを出しつつ、Scrapboxで永続化するというわけです。
Slack経由でScrapboxに書き込むことのメリットは次のとおりです。
思いついたその場で宣言できる
雑談を呼び込むきっかけになる
記憶が呼び戻される
「記憶が呼び戻される」というのはどういうことですか?
そのときの書き込んだときの流れや感情が一緒に記録される(エピソード的に記憶される)ので、イテレーションの時に、どういう文脈でそれが書き込まれたのか思い出しやすいんですよ。
Scrapboxだけにポンと書くと、どういうコンテキストで書かれた文章なのか、あとで見た時にわからなくなります。自分でも、なぜこれを書いたのかわからなくなることがある(笑)。なので、このようにbotを活用して工夫しています。
たしかに、自分で書いたはずなのに、なぜ書いたかを忘れてしまうことってありますよね。
Slackで宣言することで、それを見ていたメンバーが、成り行きを覚えてくれている。記憶が外部化されるんですよね。
このbotのコードは
Web上で公開していますので、興味のある方は作ってみてくださいね!
おわりに
言ってしまえば、情報を蓄積するって、実質どんなツールでもいいんですよ。
それこそ、紙でもいい。
その上で選ばれる基準が、そのツールが持つ思想だったり、哲学なんじゃないかなって思います。
最後に、「これから社内でScrapboxを使い始めたいけどどうすれば…?」 という方に向けて、メッセージをお願いします。
まずは自分の部署で小さく使ってみましょう。そこから波及させていくといいですよ。
「やってから考えよう」「許可を求めるな謝罪せよ」の文化です!
関連資料:
▼カラフルで楽しいpixivのオフィス。テーブルにはアーティストによる巨大イラストが。
▼pixivへの掲載がきっかけで書籍化された作品がズラリ。
▼交流の場として使えるカウンター。ミーティングの場として使ったり、みんなで集まってランチを食べたりもします。
▼お土産に、素敵な公式グッズもいただきました。ありがとうございます!
pixivのみなさん、ありがとうございました!
次回の「マンガでわかるScrapbox」もお楽しみに!
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