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中学校国語 【新聞の見出しを読む】見出しから受ける印象の違いを考察する
教材:2020年7月24日(スポーツの日)の新型コロナ感染症報道

  都留文科大学 文学部国文学科 野中 潤


 

授業のねらい
新聞の見出しを読むことで論理的思考力を養うとともに、メディアのあり方に対する興味や関心を喚起し、社会生活に必要なリテラシー(国語の知識や技能)を育むことを目指しています。
中学校国語科 学習指導要領「C 読むこと」(2)のア「論説や報道などの文章を比較するなどして読み,理解したことや考えたことについて討論したり文章にまとめたりする活動。」という言語活動に近いですが、「文章」を比較するのではなく「見出し」を比較します。レイアウトされている場所や文字の大きさにも意味を読み取ることが必要です。シンキングツールを使って分析や考察を加えた上で発表をするので、「A 話すこと・聞くこと」(1)のアにある「多様な考えを想定しながら材料を整理し,伝え合う内容を検討する」という力を身につけることも期待できます。
評論文を読む際に「対比」「対照」「二項対立」「二元論」などのように2つの概念を組み合わせることで論理の基本単位を抽出する場合が多いですが、この授業では対になる概念を組み合わせることで、4象限マトリックスをつくらせることで、より高度な論理的思考力を身につけさせることを意図しています。

シンキングツール活用のポイント
7つの新聞の朝刊1面に書かれたコロナ関連の見出しから対照的な組み合わせをたくさん見つけて座標軸1(数直線)に配置する活動(発散)をしながら理解を深めます。たくさんのカードを書き出す「発散」ではなく、7枚のカードを組み合わせてたくさんのシンキングツール=座標軸1(数直線)をつくる「発散」で思考をスタートさせます。
2つの座標軸1(数直線)を選んで座標軸2(直交座標軸)に集約し、理解したことを組み合わせる活動(収束)をして考えをまとめます。
座標軸2(直交座標軸)にまとめた考察を発表するだけではなく、別のシンキングツールでの発表を促すことで、4象限マトリックスでは表現できない「考え」を可視化することを促します。
最後は生徒たちが切り替え機能で試行錯誤しながら、自分でシンキングツールを選びます。中学3年生なので、シンキングツールをひととおり学んでいる想定になっています。そうではない場合は、自分たちで新たなシンキングツールを選ばず、座標軸だけでシンプルに発表させることもできます。

授業づくりのポイント
個で考える時間と、グループで考える時間を組み合わせるとともに、提出箱をつかって座標軸を共有することで、見出しを分析するための観点をできるだけ増やします。
最後のアウトプット(発表)を動画にすることで、試行錯誤をうながし、発表の質を高めます。
最後のアウトプット(発表)を動画にすることで、新聞の見出しを読むことの深さや広がりをクラスを超えたより広い範囲で共有します。
コロナ感染症に関する見出し以外の取り扱い方(池江璃花子選手の記事、医師による嘱託殺人事件の記事など)を座標軸で分析することで、さらに多様な観点からの分析も可能であることから、高等学校国語の「現代の国語」などで取り扱うことも可能です。
紙面のレイアウトを考察対象にせず、見出し部分のみを画像化したりテキストカードに書き出したりして活用すれば、より平易な学習課題になります。

授業全体の流れ

①導入(レクチャー)
2014年12月15日付の新聞五紙(朝日、毎日、読売、産経、日経)の一面トップの見出しを紹介し、「大勝」「維持」「圧勝」「勝利」などの言葉の選択。「320」「291議席」「3分の2」などの数字の示し方の違いについて確認します。また、「自公」と「自民」といっ微妙な違いについても確認して、読者が受ける印象の違いについて考えさせます。インターネットニュースやSNSなどで使われる「釣り」などを例示してもよいかもしれません。


②分析1(個の学び)   
新型コロナ感染症についての7紙の見出しを比べて対照的な2紙を選び、選んだ2紙のカードを座標軸1(数直線)の両端に配置させます。
両端にラベル(大きな見出し⇔小さな見出し/あおっている⇔おさえている/全国⇔地域など)をつけた上で、対照的な2紙のあいだに位置するものを座標軸に配置させます。
他にも対照的な2紙の組み合わせを考えさせて、同様に座標軸1(数直線)に配置させます。
東京オリンピック記念イベントや医師の嘱託殺人事件など、他の記事の扱いを分析対象に加えさせることもできます。
 


③分析2(個→グループ)

自分たちがつくった座標軸1(数直線)のカードの対照性を2つ選び、話し合いながら座標軸2(直行座標軸)を作らせます。
新たに作った座標軸2(直交座標軸)に、見出しの特徴について話し合いながら、7紙すべてのカードを配置させます。
提出箱に出ている他のグループの生徒がつくった座標軸1(数直線)も参考にしながら、他の組み合わせで座標軸2(直交座標軸)を作らせます。
 


④考察(グループ⇔全体)
グループで完成させた座標軸2(直交座標軸)を提出箱で共有します。
提出箱で共有された他のグループの座標軸2をフィールドに取り出し、配置の仕方を確認して、気がついたことをカードにまとめ、作成したグループのメンバーに送らせます。
他のグループから送られてきたフィードバックを参考に、配置を修正したり、ラベルを変えたりして座標軸2を修正し、必要に応じて再提出させます。


⑤発表(グループ⇔全体)
他のグループのものを含め、完成した座標軸2(直交座標軸)を閲覧して気づいたことをカードに書き出させます。
書き出したカードをグループ内で交換し、互いの気づきを共有させます。
気づきを共有するためにシンキングツールの切り替えをおこない考察を加えるようにうながします。
必要に応じてシンキングツールを切り替えながら7紙の比較から導き出される考えをまとめさせます。
グループ発表用のスライドとして完成させます。
 

グループ発表用のカードを使ってプレゼンテーションをさせます。
プレゼンテーションについて、フィードバックをカードに書いて提出箱で共有します。
フィードバックを踏まえて必要な改善をほどこし、ナレーションを入れて動画ファイルを作らせます。
ナレーション入りの動画ファイルを提出箱で共有します。
一連の活動を通じて学んだことを各自でふりかえり、カードにまとめさせます。
各自のふりかえりを提出箱で共有します。

▼解説動画はこちら▼

ロイロノート・スクールのカードに音声を録音して作成しました。クラス内であれば、そのままロイロノートのカードとして共有できますが、今回はナレーションを録音した一連のカードを「書き出し」機能を使ってmp4の動画ファイルに変換し、You Tubeで公開しました。
カードへの録音もそうですが、ロイロノート・スクールは、シンキングツールを使わなくても国語の授業を大きく変える可能性を持っています。始めたばかりの方は、テキストカードやノートの画像を提出箱で共有するとか、写真を撮ってプレゼン用のスライド資料を作るとか、朗読カードを提出させるとか、シンキングツール不要のシンプルな使い方でスタートしてみてください。

【参考】お絵かきと録音機能の活用事例