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農の科学史
農の科学史

> ローカルな知は科学となるのか ——。農業は古来、多くの地域で主要産業であった。工業化が進む中、諸科学と葛藤しつつ「農学」を成立させていく多元的な知と制度の展開を、啓蒙時代から20世紀まで、イギリス社会の文脈で描く。科学史と農業史を架橋し、間文化的な示唆を与える労作
目次
序 章
1 問題の所在
2 目的と課題

第Ⅰ部 観察・啓蒙の時代
—— 18世紀末期

第1章 農業改良調査会の設立と展開
1 農業改良と情報収集
2 農業改良調査会の設立
3 農業改良調査会と王立研究所
4 おわりに —— 調査・実験主体の課題

第2章 スコットランドの農業研究
—— 諸科学との関係
1 農業化学の萌芽
2 化学の進展と農業改良
3 高等農業教育の萌芽
4 農業講座の創設
5 おわりに —— 独立科学の端緒

第Ⅱ部 土地管理人と農業試験の時代
—— 19世紀前中期

第3章 農業知識と土地管理人の役割
1 土地差配人の役割
2 土地管理人と農業知識
3 土地管理人と科学的な農業
4 おわりに —— 所領知の担い手

第4章 所領経営と農業
1 所領経営と投資行動
2 所領経営と借地契約
3 おわりに —— 所領経済学の萌芽

第5章 農業試験と諸制度の形成
1 農業試験と実験の展開
2 化学と圃場試験
3 科学的な農業と農業協会
4 おわりに —— 農業技術と諸制度

第6章 農業化学と試験研究の展開
1 農業協会と実験
2 実験概念の変化とリービヒの影響
3 農業研究と担い手の変容
4 おわりに —— 農業研究の方向性

第Ⅲ部 法則化と制度化の模索時代
—— 19世紀後期

第7章 農業の展開と技術研究
1 農業技術の変化
2 技術教育の対応
3 おわりに —— 技術と科学

第8章 農業研究の進展
1 研究の展開と目的
2 研究に対する評価
3 研究をめぐる政府と農民の動向
4 研究体制の拡大
5 おわりに —— 農業研究の連続性

第9章 王立農業カレッジの模索
1 カレッジの設立
2 学内運営と問題点
3 教育と研究体制の問題
4 研究・教育体制の維持と政府助成
5 組織再編と新体制
6 おわりに —— 高等農業教育の模索

第Ⅳ部 農業科学政策による制度化の時代
—— 20世紀初頭

第10章 農業研究・教育体制とカレッジ・大学
1 サウスイースタン農業カレッジの設立
2 ケンブリッジ大学の理論研究
3 レディングのユニヴァーシティカレッジと品種改良
4 おわりに —— 大学における農学

第11章 農業科学政策と研究・教育体制
1 科学研究の政治的背景
2 ロイド・ジョージと開発法の成立
3 開発委員会の設置
4 おわりに —— 農業研究と国家助成

第12章 農学と研究機関
1 開発委員会と農務省の論争
2 ロザムステッドとレディング
3 研究目的と研究機関
4 おわりに —— 農学と研究体制の関連性

第Ⅴ部 プロフェッションと国際化の時代
—— 20世紀前期

第13章 農業経済学とプロフェッションの誕生
1 農業経済への関心
2 農業経済プロフェッションの誕生
3 農業経済アドバイザーの役割
4 農業経済学としての展開
5 農業経済学会の設立
6 おわりに —— 農業経済学の課題

第14章 農業経済プロフェッションと国際化
1 国際化への端緒
2 国際農業経済学会の研究動向
3 農業行政とプロフェッション
4 プロフェッションの変容
5 おわりに —— プロフェッションの課題

終 章

あとがき
索 引

2020/4/13
> 実際に本を手にとって、その分量もさることながら、本書に費やした時間の長さにたじろいだ。10年の空白を含め25年かけている。加えて、その間に私が重ねた経験が、ほとんど役に立たないと直観した。援軍をたのむ思いで、書架から、40年前に読んだ『農学原論』(柏祐賢著,養賢堂,1962年)を探しだした。はたせるかな、三章構成の最後は「科学としての農学」で、本書の題名と直接つながっている。『農学原論』の問いかけは、農学はいかに形成され、その対象の農業にはどんな特徴があり、農学はどんな方法をもつ科学なのか、である。それを確認して本書を開いた。
> 言葉は明瞭、飾りのない文体に好感を覚えた。が、イギリスの農業現場を知らない私には読み進めるのが難しい。一旦ページを閉じ、手元にあった小説『黒ヶ丘の上で』(B. Chatwin著,栩木伸明訳,みすず書房,2014年)を先に読んだ。それが助けとなった。ウェールズ国境の所領を舞台に、19世紀末から1980年まで一つの農場で一生を過ごした双子とその両親の物語。農場を切り盛りする借地農の姿が描かれていて、所領と農場、地主と土地管理人、借地農どうしの関係など、本書の農学者たちが生きた時代と地域のイメージがつかめた。
> イギリス農学の特徴として各時代に通底するのは、「農業現場から得られた所領知(経験知)と諸科学との緊張関係」という。
> 専門科学分化がすすむなかで『農学原論』は書かれた。農業生産の発展のために、農学という統一的な知の体系化が必要だと説かれている。専門はさらに細分化され、全体を統一的にとらえることは至難である。
> イギリスでは、1986年農業経済研究所解体、2000年ワイの農業カレッジの解体再編、さらに農務省の再編へと進む。
> そして「農学」にかわる枠組みは今や「地域」ないし「環境」だという。しかし科学の要件が「観察→試験→法則化」だとすれば「地域や環境は、科学としての枠組みにはなりえない」ともいう。
片倉 和人 准教授|愛知大学地域政策学部 http://regional-policy.aichi-u.ac.jp/teacher/post_26.html
愛知大学研究者情報データベース http://edu.aichi-u.ac.jp/tsearch/AUT_detail.aspx?pid=111199