> ポール・グライス(Herbert Paul Grice 1913年 - 1988年)はイギリス出身の哲学者・言語学者。オックスフォード大学を経て1967年からカリフォルニア大学バークレー校教授を務めた。言語哲学の分野で大きな影響を与え、特に言外の含み(implicature)と文字通りの意味(what is said)との関係を明らかにした「含みの理論」、及び「意味する」ということを話者の意図という概念によって分析した「意図基盤意味論(intention-based semantics)」で知られる。言語に関わる業績は1989年の著書Studies in the Way of Wordsにまとめられている。他方で、理性という概念の分析、価値の形而上学的基礎付けといったテーマにも関心を持っており、それぞれAspects of Reason、the Conception of Valueにまとめられている。
> グライスはジョン・L・オースティンの弟分にあたり、いわゆる日常言語学派を担う哲学者のひとりと見なされる。 だが、グライスは日常言語学派の方法論に強くコミットしながらも(Postwar Oxford Philosophy, 1958, in Grice (1989))、同時に日常言語学派に対する内部からの批判者であったとも考えられる(Prolegomena', 1967, in Grice (1989))。 というのも、グライスは日常言語学派の方法論に基づいた概念分析をよしとしながらも、オースティンらにおけるその方法論の不明確さも認め、そうした不明確さの除去を目指して含みの理論を打ち出している。