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第139回 民主主義を発展させるためのテクノロジー「Plurality」

Code for Japanの関治之です。
本記事では、民主主義を発展させるためのテクノロジーPlurality」について解説します。

Pluralityとは何か?

具体的にはどのようなテクノロジーがあるの?

前提として、Pluralityという概念はまだ生まれたばかりであり、それを構成するテクノロジーについても明確な定義があるわけではありません。
しかし、タン氏やワイル氏、およびその賛同者が行ってきたさまざまな社会実験やプロジェクトからは、次のようなテクノロジーが注目されています。


分散型IDDecentralized IDentifiersDID)、検証可能な資格証明Verifiable CredentialVC)、Soulbound TokensSBT)、Non-Fungible TokenNFT)といった分散型のテクノロジーも、透明性の高い意思決定や国境を越えた協調、ボランタリー活動に対する信頼の可視化などで活用できる可能性があります。

たとえば、台湾のデジタル省Ministry of Digital Affairsmoda)にはWeb3インフラを担当する専門部署があり、今年初めには、World Wide Web ConsortiumW3C)と連携して、VCとDIDの開発に取り組んでいます。
このような枠組みを通じて、自然人、法人、そして分散型自律組織Decentralized Autonomous OrganizationDAO)などの新しい組織構造の真正性を確認する手段を提供しようとしています。

また、SBTやNFTを使えば、さまざまな社会活動への参加履歴を分散台帳に記録しておくことができ、プロジェクトへの貢献が可視化できます。
Hypercertshttps://hypercerts.org/など、プロジェクトが価値を生み始めた段階で初期からの貢献者にリワードするようなレトロスペクティブファンディングRetrospective Funding遡及的資金調達)のしくみもこのような技術を使っています。

AIによる熟議の促進

より多様な意思を政治に反映させるために、AIを使って熟議を推進することもPluralityの範囲です。
熟議」とは多様な当事者による「熟慮」と「討議」を重ねながら政策を形成していくことですが、この考え方自体は1990年代から「熟議民主主義」として勃興し、世界中でさまざまな取り組みが行われてきました。

しかし、多様な意見を集約し、整理し、より良い議論を行い、最終的な意思決定に導くにはさまざまな技術的制約がありました。
多くの人の意見を拾うだけでも大変ですし、インターネット上のやりとりは発散しがちで、意見を収束させていくような議論もしにくいです。
意見が多様であればあるほど、合意形成は難しくなります。
また、人間にはさまざまな認知バイアスがありますが、そのようなバイアスを客観的に示すことも難しい点です。

AIやインターネットテクノロジーを活用することで、このボトルネックを解消できる可能性があります。
前述のplurality.netでは「Broad Listening」と言われていますが、多様な意見を集め、意見の分布を統計的に表現したり、議論の論点や足りない視点を示したりといった点が期待されています。
たとえば、Pol.isというツールを使うことで、多様な意見を集め、同様の意見を持つ集団をクラスタリングし意見の分布を示すことができます。

Plurality Tokyoについて
4月12日に、渋谷区のスマートニュースのオフィスで、日本で初となるPluralityのイベント、Plurality Tokyoを開催しました。
タン氏やGitcoinのKevin Owocki氏、伊藤穰一氏のキーノートのほか、多彩なパネルディスカッションでたいへん盛り上がりました(写真 1)。
英語のイベントにもかかわらず、130名以上の方々が参加し、Pluralityに関する注目度の高さがうかがえました。
録画が残っていますので、ぜひご覧ください。

◆写真1 Plurality Tokyoの模様


Pluralityについて情報交換するDiscordサーバも立てています。
誰でも参加できますので、ご興味のある方はぜひ最新の情報を取得していただければと思います(写真 2)。
◆写真2 イベント後の集合写真



Pluralityについての期待

ここまで、オードリー・タン氏とグレン・ワイル氏の提案をもとにPluralityについて解説してきました。
最後に、筆者がこのPluralityに感じる可能性について述べさせていただきます。
Code for Japanでは、市民が主体的に公共に関わり、自分たちの住む地域を改善していくシビックテックという活動を10年間推進してきました。
本連載でも紹介してきたように、オープンデータハッカソンなど市民側のさまざまな活動は盛り上がってきていると感じますが、まだまだ行政の共創については限定的であると思います。

いくつかの要因があるはずですが、そのうちの1つは、民主主義に対する熱量の低さやあきらめにあるのではないでしょうか。
筆者自身、シビックテックの活動を始める前は、「ちゃんと納税していれば、あとは行政の仕事でしょ」と思っていました。
しかし、Code for Japanの活動で各地を回ることで、あらためて民主主義の大切さを実感することになりました。

19世紀のフランスの政治哲学者であり、『アメリカのデモクラシー』などで知られる、
トクヴィル 著、松本礼二『アメリカのデモクラシー 第一巻(上)』岩波書店、2005年

Pluralityは、このような本質的な概念をテクノロジーで発展させる可能性があります。
技術者として研鑽を重ねてきた中で、このようなムーブメントに関われることにとてもワクワクしています。

読者のみなさんも、このフロンティアに足を踏み入れてみませんか?