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予算を倍にしても規模を倍にはできない
ボトルネックが予算ではないからだ。

未踏ジュニアのような子どもの創造性を喚起するサード・プレイスを増やそうという構想について議論して、ボトルネックが予算ではないので予算を倍にしても規模を倍にはできない、という話になった。

では何がボトルネックか。それは相互に個体認識できるコミュニティのサイズだ。
未踏ジュニアが社会に対して生み出している価値は短期的には下記のように捉えている人が多いだろう。
クリエータに対するメンタリングという形での知識移転
金銭その他のリソースによるプロジェクト遂行支援
優秀な人材を発掘して光を当てる効果

しかし長期的な価値は人的ネットワークの構築だ。5年10年経ったとき、このネットワークが社会に価値を産む。
未踏ジュニアという企画自体が、IPAの未踏事業によって作られた人的ネットワークから、5年10年経って生まれたものだ。
未踏ジュニアが生まれる引き金を引いた鵜飼さんは2011年の採択者で、2015年にアイデアがコミュニティに共有され、2016年に最初のプロジェクトが実行された。
この記事に出てくる他の初期メンバーの採択年度は: 西尾2002、荒川2004、安川2012、鈴木2013

人的ネットワークを構築するためには採択されたクリエータが他のクリエータを個人として認識できる必要がある。
例えば未踏ITでも未踏ジュニアでも、全員が全員の発表を視聴し質疑をしあう機会がある。

人それぞれ他人とのコミュニケーションの強さには差がある。
誰とでも積極的に関わるAさんもいる
特定の人と意気投合して強い人間関係が生まれるBさんとCさんのケースもある
あまり他人と関わらないタイプのクリエータであっても「黙々とXを作ってたDさん」という形で同期コミュニティ内で個人認識がされる。

卒業生クリエータが現役生向けに行った発表の例
>@YukiMihashi: #未踏ジュニア のイベントでLT発表した、「未踏ジュニアでやってよかったこと」。
>
>🤝 同期やメンターの方とつながる
>💻 使ってもらう機会を活かす
>🔥 自分の軸をもつ
>
>金銭的援助・メンタリングに加え、豊富な発表や展示、交流の機会も最大限活用してもらえたら嬉しいです😌
>
>

人数が多くなると相互の個人認識が成立しなくなる。
顔の見えない「大勢」という認識になる。
個体認識ができる場ではなくなる

単純に規模を拡大できないならどうするか
小さなコミュニティをつなぎ合わせて大きなネットワークにしていく
2004年から未踏ユースでは「卒業生を現役生の全体発表機会に呼ぶ」という施策が始まり、有益だという判断で現在の未踏ITにも引き継がれている。
2004〜2009年、未踏ユースや未踏本体において二期制が行われた。これは採択期間をオーバーラップさせて、上期と下期の採択者の間でのコミュニケーションを促すものだった。
予算を2倍にしても規模は2倍にならない
審査、採択、支出などの面では2倍になるように見えるかもしれないが、コミュニティを貼り合わせるための「のりしろ」のコストを見落としている
現場の運営事務局の負担が増える
2021年から、未踏ジュニアでは、それまで個別のプロジェクトで使っていたScrapbox上の場を一本化し、また2022年以降もその場を使い続ける方にした。これはScrapboxがチャットと異なり非同期的コミュニケーションができる場であって、過去の採択者を知る機会になる効果がある。
図中、内側の灰色の丸は時間同期的な発表イベントや同期コミュニティを意味しする
そこから生まれた会話ログなどのコンテンツに対して事後的に非同期のインタラクションが起きている

小さなコミュニティをすべて運営が把握する必要はない
把握できないし、しようとしてはいけない
運営・メンター・大人が関わるとフォーマル感が生じてしまい、それが行われるコミュニケーションの多様性に悪影響を及ぼすから
運営の目の届かないところでクリエータが自発的に作ったコミュニティこそが、5〜10年後に価値を産む
深く、濃く、パーソナルなやりとりはそこでしか行われない
運営が旗を振って作ったものは「知り合う機会」に過ぎない

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