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第8回 教育評価の諸側面

1. 教育評価の目的と対象

1-1. 教育評価の目的

教育評価の目的は大きく4つ
1. 学習者への学習結果のフィードバック
2. 教師の授業の適否についての情報
3. 学校教育法施行規則でその作成が定められた指導要録を作成する
子どもたちの学習及び健康の状況などを記録した行政文書のこと
卒業後も一定期間の保存が義務付けられている
4. 児童生徒の保護者に子どもの学習状況などの情報を提供する
子供の教育は学校と家庭であたるものという考え方に基づく
さらに、いわゆるコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)のような制度の下では、地域も子どもたちの教育の当事者とみなされ、地域へも子どもたちの様子を知らせることが必要

主に第1と第4の目的のために作成される
発行は法律などで決まっているわけではない
校長の判断に委ねられている

評価の4つの目的は、いずれも子どもたちの学習、発達に資するために行われる点で共通
より広く教育の場で行われる評価を教育評価と捉えれば、入試のような選抜のための評価も教育評価に含まれる

1-2. 評価の対象

一般に教育評価はあらかじめ決められた目標にどの程度到達しているかを対象に行われる
目標評価は不可分な関係にある

ガニェ学習によって成果として得られる能力を5つに分類(Gagné, 1977)
算数・数学の計算ができるとか、理科の法則を問題解決に適用できるといった能力
学習した内容を言語化可能な形の知識としてもつこと
学習内容の理解記憶が促進するように自らの認知を制御する能力
体育における泳ぎ方や逆上がりの仕方などの習得・上達
音楽の学期を演奏する能力や、美術のデッサンの能力なども含まれる
理科での自然への親しみや、音楽や美術での作品鑑賞の能力など

知識に関する
態度に関連する
技能に関連する

日本の小中高では3観点別に評価が行われる
「知識及び技能」
「思考力・判断力・表現力等」
「主体的に学習に取り組む態度」

2. 評価の種類

2-1. 授業の過程に沿った評価

単元の開始前に、その単元の学習に必要な前提となる知識や技能の習得状況を把握するために行われる
ある単元の学習が始まる前には、その前提となる知識や技能が習得されている必要がある

単元の途中で行われる
一連の授業が当初の狙い通りに進んでいて、子どもたちが学習内容を理解できているかどうかを評価する
つまずきが確認された場合には、再度別の方法によって同じ授業内容を考え直すなど軌道修正が求められる

単元の授業をすべて終えて行われる
単元の授業が全体として適切なものであったかどうかの評価
一般的には単元末テストや定期テストによって行われるが、教師にとってはその結果が不十分なものであれば、不十分な内容を補償するために再度、別の授業プランによる授業を行うことも考えなくてはならない
総括的評価を行うことで、次回同じ単元の授業をするときの改善の資料にすることもできる

子どもたちにとっても、診断的評価、形成的評価・総括的評価の結果をフィードバックしてもらうことで、自身の学習状況を知ることができる
これらは教育活動の一定のまとまりが対象になる
上記では単元の授業の進行に即した3つの評価について説明した
単元だけなく、学期や学年を単位とした場合でも行うことに意味がある

2-2. 基準の違いに対応した評価

期末テストでクラスの英語平均点90点
教師はクラスのすべての生徒が80点以上をとれるようにすることを事前の授業目標に定めていた
A君の成績は80点
それまでのテストでは50点
A君の成績を5段階で評定するとしたら
A君は3以下にする
クラス平均よりも低く、順位も真ん中よりも下位
ある集団の中で個人のその個人の成績がどのような位置にあるのかによって決めようとするもの
評価基準: 他の子どもたちの成績
A君は3以上にする
先生が設定した事前目標に達している
評価基準: あらかじめ定められた目標
目標を大きく上回ればクラス全員が5になることもある
達していなければ1になることもある
A君は高い評定にする
普段50点→今回80点
個人の成績の伸びの程度を重視
評価基準:その子供のそれ以前の成績

現在の学校では、目標準拠評価が採用されている
ただし、入試のような試験では、相対評価による選抜が行われるのが一般的
また、個人差や個人の努力のような面を考慮しようとするときには、個人内評価の考え方を取り入れて当たることも必要

学校教育では目標準拠評価の観点から使い分けることがある
目標
規準に基づいて教師が実際に評価を行うときに、それを指標として用いることができるように具体化したもの
基準を設けることで、ある規準について「〜ができれば5、〜までなら3」というように、達成の程度が具体的に把握できる(若林, 2010)

3. 評価と測定の方法

3-1. 評価の方法

評価が行われるためには、判断の資料とするために、個々の児童生徒の知識、技能、態度などを測定する必要がある
測定方法は様々

西岡, 2010は測定法を単純か複雑かの次元と、筆記か実演家の2つの次元で分類
一般的な学力テストでは、筆記による客観式の問題や自由記述式の問題が使われる
実技系の教科では体育の運動技能や楽器の演奏のような実演で測定することもある
多様な測定方法があり、授業中の発問に対する回答(解答)なども評価のための資料にすることができる

概念及び概念間を述語で結び、概念間の関係を図として描かせるもの
頭の中の知識構造が外在化されたものと考えることができる(Novak & Gowin, 1984)

実際の活動を通して評価を行うことを重視
学習内容によっては客観式の問題のようなペーパーテストでは測定できないものがあるという考えに基づく
パフォーマンス評価の4つの特徴(山田, 2017)
1. 長期に渡る学習活動を評価する
理科の植物の成長の観察など
2. 現実との関連をもつという意味で、意味のある学習活動を設定し、それを評価する
3. 複合的な知識や技能を用いる課題によって評価する
現実の生活での問題解決には、さまざまな知識や技能が必要なことが多い
4. 教えられた学習内容の再生ではなく、自ら作り出すことを重視する
パフォーマンス評価の対象となるのが図8-1のパフォーマンス課題

パフォーマンス評価と並んで近年一般的になっているの
自身の学習活動の経過が児童生徒に分かるような作品集、資料集のこと
ポートフォリオの対象になるのは、児童生徒によって生み出されたものだけではなく、彼らの自己評価、教師の指導や評価の資料も含まれる
特徴
日常の学習活動の過程を記録することを重視
学習活動の過程、または終了時に「ポートフォリオ検討会」が実施されること(山口, 2016)
子供と教師との対話に酔って、子どもは自身の学習状況を、また教師は自らの教育活動を評価的な観点から振り返り、両者の評価のすり合わせが行われる

パフォーマンス評価やポートフォリオ評価で評価の対象となるのは内容の幅が広く、多様性に富むパフォーマンス課題に対する子どもたちの成果
この点で、客観式問題への解答のようには正誤が一意に決まらない
そうした性質をもつ資料で評価しようとするときに役立つのがルーブリック(rubric)
これは何人かの子どもたちの成果物をサンプルに、観点ごとの達成度を数段階に分け、各段階の達成の程度を記述した基準を作成し、その基準に照らして、個々の子供の達成度を評価しようというもの
米国の北西地域教育研究所が開発した作文のプレゼンテーションに関するルーブリックの例
このようなルーブリックに基づいて子どもたち自身の学習活動がフィードバックされれば、パフォーマンス課題のような複合的な知識や技能が必要な課題に対しての改善の具体的な指針を与えることができる
教師にとっても自らの教育活動を具体的に評価できる

3-2. 測定・評価の留意点

テストのような測定の道具が測定したいものを本当に測っているか
慎重を測っているのに体重計を使っていないか
教科学習では3観点別の評価が行われる
「知識及び技能」
達成度は比較的容易にとらえられる
「思考力・判断力・表現力等」
「主体的に学習に取り組む態度」
どのように測定すればいいのかを決めづらい面がある
例えば授業中の発言回数を指標にすることがある
発言回数は外向的か内向的かという性格特性のほうがより強く反映しているとも考えられる
仮にそうだとすれば「主体的に学習に取り組む態度」の測定の指標として発言回数を用いるのは妥当性に欠ける

同じ児童生徒に同じ測定方法で測定を繰り返したときに、同様の結果が得られるかという再現性の程度のこと
例えば、数学のテストを実施し,しばらくしてから再度同じテストを実施したとき,同じような得点になればそのテストは信頼性が高いといえる。
ただし,生徒の中には1回目のテストの後にその問題について復習する者がいるといった理由で,現実には信頼性の検証は難しい
一貫性についても広義の信頼性に含めることがある
客観式の問題ではない場合には,採点者の違いによって結果が異なることがある
学級や学年などの集団のテスト結果の特徴を表す指標として用いられることの多い
個々の子ども達の得点と全体の平均値との差を算出し(この値を平均からの偏差(平均偏差)と呼ぶ)
この値が負にならないように2乗する
全員分の2乗した値を合計し,子どもの数(データ数)で割ったものが分散
データ数をn, 個々のデータ(子どもの得点)をx_i,平均値を\bar xとすると、下の左側の式で算出されるのが分散(s^2)
s^2=\frac{1}{n} \sum^n_{i=1} (x_i - \bar x)^2
分散は偏差を2乗しているので、もとに戻して正の平方根を算出したものが標準偏差
s=\sqrt{\frac{1}{n} \sum^n_{i=1} (x_i - \bar x})^2
標準偏差は全体のデータがどの程度ばらついているかの指標になる
集団内での個人の成績の位置を表す指標としてしばしば用いられる
個々のデータと平均値との差を標準偏差で割った値のこと
その集団での平均が50,標準偏差が10になるようにz得点を10倍してから50を足した「z得点×10+50」で求められる値が偏差値
この値は平均値との差と点数のばらつきの両方を考慮しているため,個人の成績がその集団の中でどの程度の位置にあるのかについてのより詳細な情報を含む指標となる

4. 教育目標と評価・指導の関係

中学校の社会科の公民的分野では,私企業は利潤 (利益) を追求する存在であることが取り上げられ, 教科書では 「私企業の活動の目的は利潤を得ること」と述べられている(五味ら, 2012)
このことについて生徒がどのような問題に答えられたら理解したといえるだろうか

教科書の記述をそのまま暗記していても答えられる問題
具体的に問題形式にして候補を列挙してみる(進藤, 2016)
「私企業の目的は( )である」という穴埋め式の問題
「私企業の活動の目的を次の選択肢から選べ」
国民へのサービス社会の進展
利潤の追求
国民の幸福
理解しているかどうかについては議論の余地がある

より深い理解を問う問題
不適切な観点を離れて解答しなくてはならない
個々の企業名を挙げて, それぞれの企業活動の目的が何であるかを記述させるという問題
この問題に答えるには,個々の企業の個別性は排除し, 共通の目的である利潤の観点から推理する必要があるため,当該の知識を暗記するだけでは対応しにくい問題
映画館に学割の制度があったり、固定電話に土日祝日や深夜・早朝の閑散時割引があったりする理由を問うといった問題
他の客層に比して,学生は料金を割り引くことで需要が増え,増収が期待できるから,
回線が空いている時間帯の利用を増やし増収を図ろうとするから
これらは,現実の社会事象に当該の知識を活用しなくてはならない上に,「学生は経済的に金裕がないから」 とか 「土日くらい友だちとゆっくり話ができるように」といった経済学的には不適切な福利的観点からの解答がなされやすい問題

目標と指導および評価は一体化されるべき
どのような問題を使うのかは、学習内容の理解をどの水準で子ども達に求めるのかという目標との対応で決まる
目標と評価は一体であるし、目標を設定する際には評価の方法(問題)や達成基準についても同時に考えることも必要
授業内容も目標の違いに応じて異なるものになる