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ハイパーリンクの怪人 2023
ぼくが赴く現場はだいたいソフトウェアを扱っていて、さまざまな意思決定の記録がデジタルデータで残されている。現場に入っていくとき、まずは「どんな記録がどれくらいありそうか」の全体像を可能な範囲で把握するようにして、そこから「ここは特に重要そう」とあたりをつけて順番に目を通していく。

こういうとき、ウェブベースのツールだとハイパーリンクを便利に使える。たとえば GitHub の Issue とか、Slack における発言とか、ひとつひとつのトピックや投稿に固有のハイパーリンクが割り当てられていると、記録に目を通しながら「これは、その後の議論でこうなった」のようにハイパーリンクでつないでいける。自分のあとに記録をたどる人が歩きやすくなるように、自分と同じような調査をしなくても済むように、情報の経路を整備していくのが好きだ。

ところで、数ヶ月前・数年前の GitHub の Issue や Slack の Thread に飛び込んでいってハイパーリンクを投稿してまわる活動をやるとき、周囲に同じようなふるまいの人がいないと、現場で浮くパターンがあるな〜と感じている。これを読んでくれているような人はウェブハイパーリンクに慣れ親しんでいる人が多いような気はしているけれど、社会ではそうじゃない人の方が多いと思う。

ワールド・ワイド・ウェブ。ぼくがよく「ウェブ」と呼んでいるもの。「ネットワーク」「ネット」と呼ばれることもある。これらはつまり「網」のことだ。

ハイパーリンクに対して特段の思い入れもない人からしたら「ハイパーリンクハイパーリンク!」と興奮していろんなところに糸を吐いて網をつくっているぼくのことは、怪人・蜘蛛男のように見えているかもしれないよな、と思った今年だった。

ハイパーリンクをつなげまくって情報の経路を整備して満足している著者近影(概念)

ぼくはハイパーリンクが好きだ。ハイパーリンクでつながるハイパーテキストも好きだ。ぼくが「インターネットが好き」よりも「ウェブが好き」という言い方を好むのは、ハイパーリンクが大好きだからだ。

キマグレエフエムというポッドキャスト番組では 2022 年の夏にハイパーリンクの話をしたことがあった。


「好き!」の気持ちがこじれてくると、ままならない感情を抱くこともある。ぼくは 2019 年のはてなブックマークの年間ランキングのことをいまだに消化できていない。


このランキングの 14 位になった URL には、Facebook のトラッキング・パラメータがくっついているのだ。これがとてもつらくて、たまにこのことを思い出しては気分が重くなっている。

ランクインした URL
対象ページのオリジナルの URL

「元の投稿より、パクり投稿の方がバズっている」を想像したら「あらら」という気持ちになると思うのだけれど、とあるウェブページを指し示す根源的な文字列があるのに、そこに特定のプレイヤーが自分たちの都合で付与したパラメータがくっついている版が広く共有されていった事実に、それと同種の「あらら」を覚えるのであった。


さて、気を取り直して。ここからは「ネオ・ハイパーリンク」と題して、よりおもしろくなってきているハイパーリンクの近況について書いていこう。

ネオ・ハイパーリンク

令和にもなると、さまざまなアプリケーションにおいてハイパーリンクをもっと楽しくするような工夫が試行されている。ここでは「工夫が施されているハイパーリンク」を「ネオ・ハイパーリンク」と呼ぶことにして愛でていく。

単方向から、双方向へ

素朴なハイパーリンクだと A から B にリンクしたときに、B のウェブページではそれを知ることができない。原初の海ではハイパーリンクは単方向的なものであった。

トラックバックバックリンクと呼ばれる仕組みは、ハイパーリンクに双方向性をもたらした。アプリケーション上で A から B にリンクされたときに B のページに「これは A からリンクされていますよ」と表示される。

Scrapbox ではバックリンクの扱いが大きい。Notion にもバックリンクはあるが表示は控えめ。Obsidian には Linked metions、Logseq には Linked References や Unlinked References といったバックリンク系の仕組みが備わっている。近年、ドキュメンテーションにおけるバックリンクの有用性が認められてきている感触がある。

GitHub の Issue や Pull Request 間のバックリンクも便利。

ハイパーリンクに、通知を添えて

𝕏 では @juneboku のようにアットマークに続けてユーザ名を書くと「メンション」という扱いになり、相手のユーザページへのリンクとなる。加えて、相手ユーザに「リンクされましたよ」と通知が送られることになっている。

日本では古くははてなにおける id:juneboku があり、おそらく 2006 年くらいに 𝕏 にメンション機能が実装されて、そのあと 2008 年に開始した GitHub にも同様のメンション機能が取り入れられている。今日では DiscordSlack などなど数々のアプリケーションにおいて @juneboku 形式のハイパーリンクが活用されている。

文字列から、オブジェクトへ

原初の海では、ハイパーリンクは素朴な文字列であった。近年は「オブジェクト・リンク」とでも呼べそうな動的に表示が変わるハイパーリンクをよく見かけるようになった。

Scrapbox では、たとえばリンク記法で「簡易にマークアップできる記法の功罪」と書いたあとでリンク先ページのタイトルを書き換えると、参照しているすべてのリンクを新しいタイトルに合わせて一括で更新することができる。文字列で URL を指定するのではなく、リンク先をオブジェクトとして扱い、オブジェクトが更新されたときにはハイパーリンクも更新される。

Notion において [[ ]] で記述するページリンクもオブジェクトへのリンク。最近は Google Drive 方面でも Google DocsGoogle Sheets @ を入力すると他のドキュメントへのオブジェクト・リンクを挿入できるようになっている。

ちょっとした情報の更新によるリンク切れが起きにくくなっている。

リンク先の、リンク先

Scrapbox の「2 hop link」は、リンク先のリンク先の情報まで見てくれる。友だちの友だちは、友だち?


これによってハイパーリンクは意図的な必然的なつながりだけじゃなく、偶発的で事故的なつながりも生み出すようになる。ぼくらが頭の中で「あれとこれには、共通点があるかも?」と連想から意味を見い出すようなことをアプリケーションが支援してくれる。ネオ・ハイパーリンクはより遠くまで届く。

プレビューがあると、いろいろ楽しい

ソーシャルメディアの時代に「シェア」行為が普及し、シェア映えするとハイパーリンクがたくさんタップされる・クリックされるということを学んだ人類は、ウェブページにメタデータを真面目に設定するようになっていった。そうして Open Graph protocol が広く知られていった。


今日では、設定されたメタデータがしっかり活用されていて、テキストチャットに URL を貼ればプレビューが展開され、はてなブログnote で記事を書くときにも文中のハイパーリンクは「リンクカード」と呼ばれるような豊富な情報を含むものになっている。ただの文字列に比べて、リンク先になにがあるのか把握しやすくなっていると言えるだろう。

LogseqObsidian では「バックリンクにもプレビュー」的な工夫がある。下記は Logseq の Linked References の例で、2023-10-15 Sunday のページに Tasks というページからリンクされている、という情報が、実際にどんなふうにリンクされているのかを含めて表示されている。素朴なバックリンクで「リンクされているよ」だけだとリンク先を確認しにいかなきゃならないが、プレビューのおかげで情報の見落としが減る。


こんな調子で、ハイパーリンクの周辺環境はどんどんキュートになっている。今後の展開からも目が離せない。長きに渡って愛でていきたい。

hr

謝辞

このページは 2023 Advent Calendar 2023 - Adventar2023-12-15 担当として用意した。気付けば 2015 年から参加していて今回で 9 回目、時の流れを感じずにはいられない。今年もこの場を開いてくれた taizooo さんに大きな感謝を。そう遠くないうちに甲府のあたりをうろうろすると思うので、霊圧を感じ取ってもらえたらうれしい。

ここに集いし 25 の人間たちが、それぞれに https:// から始まる文字列を持ち寄った。この惑星ではそれをハイパーリンクと呼んだ。長野県松本市より、ハイパーリンク経由の愛を込めて。