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コミュニケーションと人間関係における「貯金」のメタファを考える
COVID-19 が流行した世界では在宅勤務が広く取り入れられることになった。そこでの人々は物理的に対面してのコミュニケーションではなく、インターネット越しにデジタル信号を送受信するスタイルのコミュニケーションを重ねている。

さて、こうしたオンラインでのコミュニケーションを半ば強制されている 2020 年から 2021 年にかけて、コミュニケーション人間関係を語る上でしばしば「貯金」というメタファが用いられているのを見かけた。見かけている。この「貯金」というメタファはどういった性質を指し示そうとしているのだろうか。

ぼくが「貯金」から想起するシナリオを書き出してみよう。

(A) なにか大きな買い物のために、少しずつお金を貯める
(B) なにか不測の事態に備えて、一定以上の使えるお金をプールしておく
(C) お金を稼げない期間に向けて、稼げる期間のうちに稼いでおく

他にもありそうだけど、パッと思いついたのは 3 種類。

実は、どのシナリオもコミュニケーション人間関係にうまく当てはめて考えることができていなくて、ぼくは貯金メタファがピンときていない。強いていえば (B) のシナリオで、信頼貯金のように貯めておけば自分がなにかやらかしたときに周囲の人々に助けてもらえる、って状況を貯金と絡めて表現できるのかな…?というくらい。

にしても、お仕事の上での「信頼関係」「人間関係」は「いい仕事」をすることでしか積み上げられないように思う。物理的近距離でいっしょにお仕事したら自動で貯まって、物理的遠距離で離れてお仕事したらどんどん減っていく、そんな性質ではないと感じる。人々が「オフラインで貯めよう!」と言っている対象は、いったいなんなのだろうか。


ところで、ぼくは「オフラインでもオンラインでもコミュニケーションは変わらない」と主張しているわけではない。ただ、お金のように貯めたり使ったりする性質のものが自分と他者との間に蓄積するようには感じていない、というだけで。

テキストでしかやりとりしたことがない人と初めてボイスチャットでやりとりすると「へぇ、こんな声だったのか!」と情報の次元が増える感触はある。一度でもボイスチャットでやりとりすると、以降はテキストでやりとりしていても声が聞こえてくるような感覚を抱く。さらに、ビデオチャットでのやりとりを経験すると姿形や表情も含めて情報を受け取るようになる。そして、実際に物理的な肉体を伴ったやりとりを経て背の高さや体の大きさも情報に加味されるようになる。

点が線に、線が面に、だんだんと情報の次元が増していく感覚はよくわかる。高次の情報にはそれはそれでよさがあるな、と思っているので自分の情報発信はテキストメディアに加えて音声メディアや動画メディアにも幅を広げている。ただこれは貯めた次元をなにかに使うというわけではないし、増えた次元が減ることもないので、貯金という感じではないよな〜と思う。


というわけで、ぼくはコミュニケーション人間関係における「貯金」のメタファがなにを表現しようとしているのかよくわかっていない。みなさんの解釈があればぜひ教えてほしい。