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イエスマン "YES"は人生のパスワード
2008年製作

あらゆることにネガティブで、何を言われても「ノー」と言っていた男が、ひょんなことからとあるセミナーに参加。「これからの人生、イエスだけを言うと自分に誓え」と言われ、なかば強制的に誓約を立てさせられたのだが、言われた通りあらゆることに「イエス」と言っていると人生が好転してきて......。元気がないときに見る映画としておすすめされていたので見たが、いやあ。これは元気が出る。映画としてもなーーんも難しくない。脚本も見事な起承転結となっており、その時間配分がパーフェクトに近い。

まず、その設定を聞いて誰しも思うのが「すべてにイエスと言う」なんて本当に可能なのか?ということなのだが、主人公は基本、本当にすべてにイエスと言う。近所に住む老婆にフェラチオしてあげるからおとなしくしててと言われ、それも嫌々ながらも受け入れてたから、本当に何でもありだ。その流れで、韓国語を勉強し、飛行機の資格を取り、マイナーバンドのライブに行き、融資の申し入れはすべて承認(主人公のカール(ジム・キャリー)は銀行マン)、ライブで出会った女の子と仲良くなり、一緒に行き先を決めない旅行をし、なんとネブラスカまで行くことに。

ところが、普通の人からしたら奇怪なその決定のせいで、FBIからテロリストだとの疑いをかけられ逮捕されてしまう。「韓国語を習ったのもそのためだろう!」「飛行訓練もしていたな」「突然ネブラスカなんかに誰が行くんだ」「お前の名前。カールというのはマルクスと同じじゃないか!」というわけ。

「すべてにイエスと言う」と書くとシンプルなようだが、こんなの、実際にやろうとしたらかんたんに矛盾してしまうだろう。たとえば「これからの人生、ノーとだけ言い続けて」と頼まれても「イエス」と答えなければならなくなる。イエスとは「ノーへのノー」なのだから。実際、「お前、テロリストだな?」とFBIから聞かれたカールは「違う!」と否定している。

新しくできたガールフレンドのアリスンから「一緒に住もう」と言われ、少し迷ったあとに「イエス」と答えるカール。しかし、その後「イエスしか言わないセミナー」に参加して誓約を立てたことをアリスンに知られてしまう。カールは本心からイエスと言っているのだが(だから少し逡巡する)「イエスと決めているから自動的にイエスと言っただけなのね」と疑われてしまう。元妻からキスされながら「今晩は一緒にいて」とお願いされたカール。これにもカールは「ノー」と断る。断ったとたんに駐禁切符を切られるわ、交通事故に遭うわ、さんざんな不幸に見舞われるのだが.....。

大事なのは常に「イエス」と言うことなのではない。人生を楽しむ気持ちを忘れないこと。自分が自分の人生の主役になること。逆にただただ機械的に自動的に「イエス」というのは実は自分の人生を放棄しているのと同じことなのだ。そのことをユーモラスに表現したオチが素晴らしい。ホームレス支援の服を大量調達したカール。一体どうやって?と聞かれると「喜んで寄付する人を大勢知ってるんで」。イエスセミナーに参加した人たちが全員スッポンポンになっているシーンで映画は終わる。映画のメッセージを強烈な一枚のビジュアルで一瞬で笑いとともに伝えるこのシーンがお見事(ネタバレごめんね)。

まあ冷静になれば、そもそもカールは銀行マンで、割と高階層高所得だし、旅行や習い事をいくらでもできるくらいに暮らしは裕福。一度結婚できるくらいにはモテるし、短期間でギターや韓国語をマスターしてしまえるくらいに超有能と「イエス関係ないやん」「こんなやつ、なんかきっかけあったらいくらでも勝てるやん」と思わないでもないのだが、すべてにふてくされていた主人公が生きることを楽しむ様は見ているだけでハッピーになれるし、何よりジム・キャリーの、ジム・キャリーだなーって演技がいい。

途中、飛び降り自殺をしようとしている人を、ギター弾き語りで止めたあとにカールが言うセリフ「指に豆ができちまった!」(「I got blisters on my fingers)はリンゴ・スターヘルター・スケルターを演奏したあとに吐き捨てたセリフとして有名。自殺を止めるときの楽曲はThird Eye BlindJumperって曲らしい(知らない)。