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(☕2)カフカの変身について
2021/07/12、アープラメンバーのリクトーさんがカフカ『変身』について討論室(202)でトークを行われました。
許可を頂いた上で書き残せた部分のログをまとめて、今後のカフカ作品を考察する際の参考にしたいと思います。
なお話を聞いてる中のメモなのでリクトーさんの言葉の一字一句を書きおこしたものではありません。
引用は角川文庫中井正文訳)のもの

リクトーさん曰く
カフカの変身は小説の教科書のような作品である。
 無駄を削ぎ落したものが短編小説。
 グレゴールの死は奇妙なカタルシス
  シェイクスピア悲劇(古典悲劇)のように、誰かの死を美化し浄化するものではない。
 物語は解決できない問題に焦点を当てることによって普遍的になる。
 変身の焦点は出勤(したくない仕事の義務)。
 リンゴで死ぬ=(どうしようもない苦しみを笑うことでやり過ごす、その方法としての)ギャグ

変身は不条理でなく論理的に作られた作品。
 家族の設定も考えられている。
親は息子に養われて当然という考えを持っている(グレゴールに感謝すらしてない)
妹(グレーテ)はグレゴールにとって未来のある希望(自分の稼ぎで学校に通わせたいと思っている)

 一方で虫に変身したのはグレゴールの仕事をしたくない気持ちが起こしたもの。(変身=ストライキ)
 しかしグレゴールは自分の気持ちが判っていないので、虫になってもなんとか出勤しようとする。
 現実を受け入れられてないので虫になったことは彼にとって大したことではない。

>「ところで……」と、グレゴールは口をきりだしたが、いま冷静さを保っていられるのは自分ひとりだということを十分に意識した上のことだ。「わたしはすぐ着換えをして、商品見本を鞄へつめこんで出発しますよ。出発さえしたら文句はないんでしょうな。さて、支配人さん、わたしが強情っぱりどころじゃなくて、たいそう仕事好きな人間であることがよくおわかりでしょうね。

グレゴールの性格は基本的に受身。
 閉塞的な部屋、支配的な親から逃げようとしない。環境に抵抗しないから運命に引きずられて死に到る。
 苦しみに対して真摯に向き合ってないから、どこか他人事で心に余裕がある。

変身の示唆的な表現
家具を持ち出す=人間の生活から虫の生活へ
毛皮の衣裳づくめの夫人の絵を手離したくない=人間の女性に対する執着

カフカの明察=異性(家の外の異性)を求める心が苦境を乗り越える活力になるという考え。

虫になったカフカには歯がない。この描写は作中で2回出てくる。

>次に錠へさしこんであった鍵を口にくわえて回してみようとした。ところが、悲しいかな、一本も歯のないことがわかってみると、何で鍵をつかんだらいいのか見当もつきかねる。

>いろいろな食事のときの物音にまじって、絶え間なく噛みくだく歯の音が聞こえてくるのが、グレゴールにはなんだか異様にかんじられる。まるで食べるためには歯が必要なことと、歯のないあごはどんな美しい形をしていても役に立たないことを、ばりばり噛む音で歯のないグレゴールへ見せつけてやらねばといわぬばかりなのだ。

 食べるという行為は異物を取り込んで消化する(栄養を摂る)
 歯を失ったグレゴールは異物を吸収する力がなくなっている、それだけ心身が弱っている。

グレゴールとグレーテの対比的な表現。
 最後に描かれる親とグレーテの会話は異性への欲求を奪われたグレゴールとの対比になっている。
 家族に夫人の絵を取り上げられたグレゴールと、親に夫を探してもらえる妹。



変身に関連する情報
村上春樹はカフカの変身を元にした『かえるくん​、東京を救う』という短編を書いているらしい。

リクトーさんのコラム『かえるくん​、東京を救う』と『変身』を比較考察したページ

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トークを聞いたあとに思ったこと
グレゴールの(虫の)体の打たれ弱さも仕事したくない欲求が設定したことなのかもしれない。もしくは脱皮した直後の柔らかさ?
触って悪寒が走った体の白い斑点(と痒み)の正体は?(最初はカビみたいに思った)
 カフカの時代、昆虫学はどの位まで判っていたのだろうか?現代知られているのは体表(外骨格)には痛点がないということ。白い斑点の痒みと悪寒はどこで感知された。
絵画の女性は毛皮を贅沢に使っている。毛皮は人間の残酷さと上流社会の憧れだろうか?
謎には意味があると思うとやっぱり面白いし沢山あるとワクワクすっぞ。