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フェティシズム
>フランス語の「フェティッシュ物神呪物) 」から生じた言葉であり、ある対象、あるいはその断片を偏愛する態度のこと18世紀に初めて「フェティシズム」という言葉を用いたシャルル・ド・ブロスによれば、この言葉は15世紀後半にアフリカを訪れたヨーロッパ人が、そこで崇拝の対象とされていた歯、木片、貝殻などを指すために用いたポルトガル語の「フェイティソ魔術呪符)」に由来する。したがって「フェティシズム」とは第一に宗教学や人類学の領域における「物神崇拝」という意味を有する。その後、ド・ブロスの著作を読んだマルクスは、商品によって循環する資本主義社会にこの「物神崇拝」的性格を見出し商品経済をめぐる独自の「フェティッシュ」論を展開した。さらにその後、このフェティッシュおよびフェティシズムという言葉は、フロイトに代表される精神分析の議論においてさらに深く展開されることになる。19世紀後半に生じたこのフェティシズムの個人化ないし性科学化にともなって、「倒錯的な性的嗜好」としての「フェティシズム」という用語が新たに誕生する。日本語では「フェチ」という略語によって広く知られるように、今日この言葉は、かつての集団的ないし宗教的な含意からは離れ、一般に 特殊な細部や部分対象への偏愛を指す概念として理解されている。著者: 星野太

宗教的には呪物であったり、マルクスが用いた経済的な意味合いにおいては商品であったりするが、「性的フェティシズム」といわれるものは、異性の肉体の一定の部分や、異性が身につけている衣服の断片あるいはそれと密接な関係にある物体などに性的な興味が集中し、それらに異常な強度をもって性欲を刺戟される倒錯症である。
斎藤光「『性的フェティシズム』概念と日本語文化圏」によれば、1887年にアルフレッド・ビネ「愛におけるフェティシズム」という論文において、正常の個人がまったく性的な関心を向けないような物的対象を見て強度の性的興奮を示す「変質者」を、「フェティシズム」という用語でカテゴライズすることを提唱したという。
1886年に出版されたクラフト=エビング『性的精神病質』初版にはフェティシズムへの言及はなかったが、1887年に刊行された四版にはフェティシズムの概念が導入され、91年の六版以降、フェティシズムはサディズムマゾヒズム同性愛とともに「性倒錯」の範疇に位置づけられたという(田中雅一編『フェティシズム論の系譜と展望』所収)。
明治の文豪の1人である谷崎潤一郎は、その文学を特徴づける性的倒錯の要素を、クラフト=エビング『性的精神病質』(第十版)から学び、その圧倒的な影響を蒙っていると言われている。