>(1)古代ギリシアのストア哲学のこと。(2)ストア学派の影響によって生まれた一つの精神的態度。ことに実践道徳において、喜悦や悲哀の感情を圧伏し、平静に無関心な態度で運命を甘受する人世観をいう。「ストイック」ともいう。ストア学派の古い人々の著作は早くから散逸したが、セネカ、エピクテトス、マルクス・アウレリウスの著作は広く愛読され、後代への影響は大きかった。古代末期や中世においては、ストア学派のいろいろの学説、ことにその内的自由の倫理説はキリスト教倫理の形成、修道院生活の理想に影響を及ぼした。
> 16、7世紀はまたストア説の再興期であって、近代の思想文芸にも広い反響を生んでいる。シェイクスピアの『じゃじゃ馬馴らし』の一節、「只、ねえ、旦那さま、その、美徳とか、道徳の修行とかいうことあ結構とは存じますが、どうか、ま、ストイックだの、丸太棒(ストツク)だのには成りたくないものでございます」(第一幕、第一場、31行。坪内逍遙訳)はその一端を示すもので、ストア学派の無感情を皮肉ったものである。